無人店舗/自動接客の虚実

顔認証で入退店し、決済も顔認証かつキャッシュレスで完了する。手ぶらで買い物体験ができる無人の実験店舗が2020年7月、東京・西新宿に開業した。カメラやセンサーで来店客の動きをリアルタイムで捕捉し、行動データを極めて詳細に可視化することに成功した。その実力と課題を追った。

「SECURE AI STORE LAB」は入退店や決済を顔認証で行う。名前や電話番号、クレジットカードなどの個人情報と顔写真を事前に登録すれば、手ぶらで買い物ができる
「SECURE AI STORE LAB」は入退店や決済を顔認証で行う。名前や電話番号、クレジットカードなどの個人情報と顔写真を事前に登録すれば、手ぶらで買い物ができる

 東京・西新宿のオフィス街。日本初の超高層ビルとして知られる新宿住友ビルの地下1階に「ちょっと先の未来」を先取りしたという無人店舗がある。「SECURE AI STORE LAB(セキュア・エーアイ・ストアラボ)」だ。

前回(第1回)はこちら

 5坪ほどのこぢんまりとした売り場に、店員はいない。入り口には顔認証ゲートがあり、マスクをしたままでも入店可能。天井や棚に設置したカメラやセンサーで来店者の行動を可視化し、AI(人工知能)で解析。ゲート前のモニターに顔を向ければ、手に取った商品とその個数、合計金額が表示され、事前に登録したクレジットカードで決済される仕組みだ。スマートフォンやICカードをかざすことなく買い物ができる。

【特集】無人店舗/自動接客の虚実
【第1回】 利益の寄与はわずか年40万円? 無人店舗が直面する3つの虚実
【第2回】 アットコスメ×セキュリティー企業 無人店で行動データ詳細分析 ←今回はココ

 店内にはモニター付きの棚が3つ置かれ、化粧品情報サイト「@コスメ(アットコスメ)」発のブランド「@cosme nippon(アットコスメニッポン)」の商品が1棚に9アイテムずつ並んでいた。モニターは商品と連動しており、商品を持つとアットコスメに掲載されている商品説明や口コミ情報が表示される。

 商品トレーの下には重量センサーが設置してあり、重さの変化から在庫数を推測。大量に商品がなくなると「持ち去り検知」のアラートを、トレーが空に近づくと補充のアラートをそれぞれ通知するため、万引き被害や売り逃しを防ぐことができる。

店内にはモニター付きの棚が3つ並び、「@cosme nippon」の商品が陳列されていた
店内にはモニター付きの棚が3つ並び、「@cosme nippon」の商品が陳列されていた
商品を手に取ると、モニターの左側には商品情報が、右側には点数や合計金額が映し出される
商品を手に取ると、モニターの左側には商品情報が、右側には点数や合計金額が映し出される
アットコスメ内の口コミ情報も確認できるようにした
アットコスメ内の口コミ情報も確認できるようにした
管理画面では商品ごとの在庫数がリアルタイムで更新される
管理画面では商品ごとの在庫数がリアルタイムで更新される

リアルな行動データを丸裸に

 店を運営するのは、このビルに本社を構えるセキュア(東京・新宿)だ。2002年に創業し、顔認証技術や入退室管理、防犯カメラ、画像解析などのセキュリティーシステムを開発、販売している。実店舗に挑むのは初の試みだ。

 「無人店舗は、これまで開発してきた監視カメラシステムや入退室管理システムの応用だった」と語るのは取締役事業開発部長の平本洋輔氏。実は4年ほど前から構想はあったが、「企業に提案しても、費用対効果が見えない、失敗したら会社のイメージが悪くなるという声が多く、最後の一歩が踏み出せなかった。それならば、自社で店を開発、運営し、ここまでできるということを体感していただくほうが、より早く課題が見え、さらなる技術の向上につながる」(平本氏)と考えた。 

 この店の真価は、POSデータではつかめない、リアルな行動データを丸裸にした点にある。管理画面には入店者数や売上額、売上個数はもちろん、商品ごとのタッチ回数や、棚の前にいた時間なども分かる。入店者数に対するタッチ率、購買率を「商品CTR」や「商品CVR」、「棚CTR」や「棚CVR」といった指標で把握できるのだ。手に取られたが、結局、買われなかったなどの情報もここから読み解ける。

 店内のどのエリアに人が多く集まったのか、棚のどの場所がよくタッチされているのかを、色の濃淡で示すヒートマップ機能もあり、購買につながりやすい「ゴールデンゾーン」も割り出せる。性別や年代などの属性情報に加え、来店者の表情をもAIを使って解析し、喜怒哀楽などの感情も類推している。

棚のどの位置の商品がよく手に取られているかが一目で分かる
棚のどの位置の商品がよく手に取られているかが一目で分かる

 液晶の「電子値札」のため、手作業による値段の張り替えは不要。顔認証時に入店人数を制限し、37.5度以上の体温を検出すると入店不可とする新型コロナウイルス対策も導入した。コロナ禍でビル全体の出社率が落ち込む中でも、毎日50人前後が来店し、近未来のショッピングを体感しているという。

避けて通れなかった2つの課題

 最大のメリットは、リアルな行動データが見えるため、「KPI(数値目標)を立ててPDCA(計画・実行・評価・改善)のサイクルを回しやすくなること。レジや棚卸しなどの定型業務をすべてAIに任せて省人化できることにある」と平本氏は説く。

 実は、コスト面でも一石を投じた。モニターも、カメラも、センサーも、コンピューターも、なるべく安価でかつ汎用的に手に入る機器を組み合わせて店舗を開発したのだ。顔認証ゲートを除けば、かかった費用は100万~150万円の範囲に収まるという。「どんなにいいアルゴリズムを開発しても、それを動かすためのハードウエアが高額であれば、導入が進まない」(平本氏)という思いからだ。

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