
アートやデザイン、建築、テクノロジーなどクリエイティブな分野に精通する水野祐弁護士に、デザイナーとクライアントが良好な関係を築くための契約の課題や考え方について聞いた。
弁護士
【第2回】 世界観のベースは定期会議 鈴廣かまぼこのデザイン経営
【第3回】 河合塾の新規事業 デザイナーはパートナー、売り方まで考える
【第4回】 「もう契約更新しない」 デザイナーに突き放された経営者の覚醒
【第5回】 全社員巻き込みリブランディング 企業の存在意義から見直す
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「デザイナーは著作権を譲渡しない前提の料金メニューを用意しておくべきだ」
ブランディングを成功させるためには、デザイナーとクライアントが良好な関係を築き、継続して取り組むことが重要です。また、デザイン経営に注目する企業が増えている今、外部のデザイナーとの業務委託契約の指針も必要だと考えます。具体的にどういった契約を結ぶべきなのでしょうか。水野さんのご意見をお聞かせください。
私は日ごろ、デザイン会社だけでなく、企業や広告代理店とも仕事をしていますが、一貫してクリエイター側の視点で物事を判断するようにしています。そのほうが優れたデザインが生まれ、プロジェクトもより良いものとなり、結果的にクライアント側のメリットも大きくなると信じているからです。とはいえ、仕事を発注するクライアントができるだけ自分たちの裁量や自由を確保して、リスクヘッジをしながら有利な内容で契約を交わしたいと考えることは、経済合理性からも当然です。そのことは、デザイナーも理解しておく必要があります。
理想は、プロジェクトで実現したいことを擦り合わせた上で、双方が納得できる契約内容をその都度考えていくことです。ただ、実際にはクライアント側が有利になるように、契約内容が定型化されていることは珍しくありません。
クライアントが有利な契約とは、具体的にはどういった内容なのでしょうか。
「著作権の譲渡」「著作者人格権の不行使特約」「権利侵害がないことの保証」といった条項がデフォルトで設定されていることです。まず、著作権には「著作財産権(以下、著作権)」と「著作者人格権(以下、人格権)」の2種類があり、著作権は著作物の利用方法を細かく定めています。人格権は著作物を生み出した著作者(デザイナー)に帰属するもので、公表権と氏名表示権、同一性保持権という3つの権利があります。特に表現に関わってくる権利が同一性保持権で、著作者であるデザイナーが生み出した成果物を意に反する形で改変されない権利です。特徴は、著作権は「譲渡」できますが、人格権は譲渡できないこと。たとえ著作権を譲渡しても、人格権は著作者であるデザイナーが持ち続けることになります。
つまり「著作者人格権の不行使特約」とは、デザイナーが人格権を「行使しない」ことを合意するという内容です。その契約により、クライアントはデザイナーの許可なくデザインの色や形を自由に変更できるようになります。
私は、著作権の譲渡や人格権の不行使が一律でダメだとは思っていません。問題は2つ。1つは、著作権の譲渡や人格権の不行使が前提で、デザインフィーが最初から「買い切り」の価格になっていることです。法律の原則は、著作権も人格権もデザイナー側に帰属し、譲渡や不行使は例外。本来、譲渡や不行使には相応の対価が支払われなければならないはずなんです。
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