これまで医療やエンターテインメントといった領域に焦点を合わせ、コンピュータービジョン(CV)を活用する挑戦的な取り組みとその成果を伝えてきました。今回は、現在、積極的に進められているCVに関する取り組みの中で、近い将来、注目度がより高まると予測される業界横断の取り組みについて紹介します。

未来を左右するコンピュータービジョンのイメージ(写真/Shutterstock)
未来を左右するコンピュータービジョンのイメージ(写真/Shutterstock)

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【1】アンビエントコマース(Ambient Commerce)

 2000年代に入ってから、人々の消費活動の中心が実店舗からオンラインへと移行し始めていることを実感している読者も多いことでしょう。その結果、実店舗型の小売業を営む企業の売り上げが低迷し、事業継続が困難になってしまったり、販売戦略の転換を余儀なくされたりした例もあります。

 実際、日本における書店の数は、オンラインショッピングが普及を始めた06年から20年までの15年間で、3分の2まで落ち込んでいます。ここでは書店を例として取り上げましたが、書店は購買活動のオンライン化により苦境に立たされた小売業の一例にすぎません。コロナ禍の影響もあり、消費活動のオンライン化はさらに進んでいき、小売業を営む多くの企業が戦略転換の岐路に立たされています。

 そんな中、注目を集めているのが「アンビエントコマース」という仕組みです。アンビエントコマースとは、従来の小売店舗にテクノロジーを掛け合わせることで、消費者の購買につながる新たな体験を生む仕組みです。

アンビエントコマースのイメージ写真(出所/米msensoryのWebサイトから)
アンビエントコマースのイメージ写真(出所/米msensoryのWebサイトから)
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米msensoryのWebサイト

 アンビエントコマースが目指す具体的な仕組みとしては、AI(人工知能)とセンサーを用いて消費者の決断を支援する取り組みや、レジを介さずに購買活動を完結させる取り組みが挙げられます。つまり、アンビエントコマースの実装を進める企業が目指しているのは、実店舗でしか味わえない新たな購買体験を消費者に提供することで、実店舗内で購買活動を完結させる仕組みを作り上げることなのです。

 米msensory によると、オンラインへ移行する消費者を再度実店舗へと呼び戻すための有効策として、アンビエントコマースに期待が集まっています。この仕組みが現状の打開策となり得るという根拠として、35歳以下の若い世代は上の年齢層と比較して経験を重視する傾向にあることが挙げられます。

 これまで、ミレニアル世代と呼ばれる世代は購買活動に消極的で消費を促すのが難しい世代だといわれてきました。しかし、その場でしかできない体験という触れることのできない価値を提供することにより、ミレニアル世代の購買意欲を刺激できることが明らかになってきています。新たな購買体験を通してミレニアル世代を自社ビジネスに囲い込むことができれば、ビジネスの大きな成長が期待できるというわけです。

 では、アンビエントコマースとコンピュータービジョン(CV)はいったいどう関係しているのでしょうか? アンビエントコマースの代表的な施策例として、VR(仮想現実)ゴーグルを介して着替えることなく試着ができる試着室の試験導入や、レジでの会計が不要な完全無人店舗、AIによる無人コンシェルジュサービスなどがよく取り上げられます。そしてこれらの仕組みすべてに、CVが用いられているのです。

 VR試着室の根幹をなすVR技術はもとより、完全無人店舗では店内に設置されたカメラを通じて入店者を認識し、その行動をカメラで追いかけ、どの商品を購入したのかを記録することで、仕組みが成り立っています。AIコンシェルジュサービスにおいても、機能を向上させるためにカメラを通してユーザー情報を取得しているケースがあります。

 つまり、アンビエントコマースとは、CVやその他の先進技術がもたらした新たな可能性だといえるでしょう。

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