連載第2回で取り上げた医療分野だけでなく、画像認識技術を活用してイノベーション創出に取り組む産業は多岐にわたります。その中で最も身近で、最も大きな進歩が見られる分野といえば、やはりエンターテインメントの領域でしょう。今回は、エンターテインメント領域の身近なサービスを実例として取り上げ、コンピュータービジョン(CV)がどのように私たちの生活に潤いを与えてくれるかについて解説します。
顔認証技術のエンターテインメントへの応用
コンピュータービジョン(CV)のエンターテインメント領域への応用として最も身近な例といえば、顔認証技術を応用したスマートフォンアプリでしょう。例えば、写真や動画の共有サービスが顔認証技術を活用しているスマホアプリが挙げられます。こうしたサービスは若年層を中心に爆発的な人気を誇っています。
とはいえ、画像や動画を共有するだけのサービスは数え切れないほど存在しているものの、顔認証技術をうまく活用しているアプリはほんの一握りです。その一握りとして、「TikTok」や「Instagram」「Snapchat」といった、市場を席巻しているアプリが顔をそろえています。これらのアプリでは、画像や動画内に現れるユーザーの顔を認識し、輪郭や目鼻立ちを自由に加工することが可能です。さらに、ユーザーの表情の変化に合わせてエフェクトが表示されるような機能も搭載されています。
画像の中から顔を認識してユーザーが自ら加工したり、自動でエフェクトが付与されたりという機能は一見、単純そうにも見えます。しかし、これらの機能を実現するには、実は最先端技術をフル活用する必要があるのです。
確かに1枚の画像に映っている顔を検知し、ユーザーが加工するだけであれば、技術的難易度は大幅に下がります。しかし、動画の中で動き回るユーザーの顔を認識し続けながら、正しいタイミングでエフェクトを発現させることは、それほど単純な技術ではありません。この仕組みを実現させるためには、まずユーザーの顔と目鼻立ちを認識し、その上で動画内でそれらを追尾し、エフェクトが発現するトリガーとなるアクションを認識する必要があります。これらの仕組みが無料のアプリ内で誰でも利用できるというのは、CVの仕組みが進歩し、少ないコンピューティングリソースでも処理が可能になったからに他なりません。
また、顔認証のような先端技術を、エンターテインメント領域のようなサービスに活用するためには、収益基盤の拡大につながる付加価値として、その技術を認識する必要があります。顔認証技術を用いて成功しているサービスでは、ユーザーがアプリ上で過ごす時間の長さが収益増へとつながるマネタイズポイントを用意しています。広告の掲載が1つの好例で、アプリ提供者はよりおもしろい体験をユーザーに提供することで、1日当たりのアクセス回数の増加や滞在時間の引き延ばしへとつなげ、ユーザーがより多くの広告を視聴する流れを作り上げています。
広告のような間接的な手法ではなく、技術自体が収益を生む仕組みを考えた場合、ユーザーがアプリ提供者にコストを直接支払う方式が一般的です。しかし、その場合、ユーザーを新たに獲得するためのハードルが高くなってしまう上、ユーザーからの期待度も上がってしまい、中長期的な成功へとつなげるには、ビジネスの難易度が高くなってしまう傾向が見られます。
いずれにせよ、顔認証技術がかなり日常的なサービスに用いられるようになっていることは、間違いありません。現在、新たな付加価値として位置づけられている顔認証技術が、画像や動画を扱うアプリであれば当たり前のように用いられる日も、そう遠くないかもしれません。
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