連載第2回では、新型コロナウイルスの感染拡大でにわかに注目を集めた、医療分野へのコンピュータービジョン(CV)の活用について取り上げていきます。医療分野でのCVの活用は、人目につく機会が少なく、それほど社会的認知度が高いわけではありませんが、実は、CVの産業活用に最も精力的に取り組んでいる分野の1つなのです。最先端の事例を基に、医療分野でのCV活用の現在と将来的に起こり得るイノベーションについて、解説していきます。

3Dカメラ付きのロボットアームで遠隔手術を進めるイメージ(出所/Shutterstock)
3Dカメラ付きのロボットアームで遠隔手術を進めるイメージ(出所/Shutterstock)

前回(第1回)はこちら

【1】医療分野における画像認識技術の応用

 「ヘルステック」や「医療×AI(人工知能)」というキーワードとともに、ニュースに取り上げられることも多かった医療におけるAIの活用。ですが、新型コロナウイルスの感染拡大防止、あるいは感染者の治療に対して効果を発揮したという話はほとんどなかったため、AIの医療への活用は夢物語だと結論づけている人も多いのではないでしょうか。

 実際には、AI活用には膨大な学習データが必要という制約があるため、新型コロナウイルスのような新たに生まれた脅威に対して、「まだ」大きな効果を発揮できていないのです。

 コンピュータービジョン(CV)の技術も、広義に捉えれば、AIという技術群のうちの1つです。そのため、他のAI技術同様、新型コロナウイルス感染症という脅威に対しては、まだ目立った成果を上げられてはいません。ですが、その他の疾病においては、既に一定の成果を上げている研究も存在します。

 その中で最も有名なCVの技術といえば、やはり画像認識でしょう。画像認識技術の医療への活用は何年も前から進められており、目立った成果としては、皮膚がんの分類や前立腺がんの等級分類などが挙げられます。

レントゲン撮影した画像をコンピュータービジョン(CV)で認識する技術が進んでいる(出所/Shutterstock)
レントゲン撮影した画像をコンピュータービジョン(CV)で認識する技術が進んでいる(出所/Shutterstock)

 皮膚がんの分類に関しては、2032もの症例に関する医療画像を合計で12万9450枚収集し、実施されました。その結果、専門医の診断精度を超えるCVシステムの構築に成功した、とスタンフォード大学のAndre Esteva氏およびBrett Kuprel氏らが2017年に学術誌「Nature」上で発表しています。

 18年に米グーグルが発表した前立腺がんの等級分類に関しても、プロジェクトに参加した病理学者の等級分類精度が61%だったにもかかわらず、プロジェクトで構築されたCVシステムによる等級分類の精度は70%に達しました。

 これらのプロジェクトの他にも、マンモグラフィー検診の画像から乳がんを識別することを目指すプロジェクトや、CT画像から新型コロナウイルスへの感染の有無を判別するプロジェクトなどが進められており、一部では成果を上げ始めています。

この記事は会員限定(無料)です。

有料会員になると全記事をお読みいただけるのはもちろん
  • ①2000以上の先進事例を探せるデータベース
  • ②未来の出来事を把握し消費を予測「未来消費カレンダー」
  • ③日経トレンディ、日経デザイン最新号もデジタルで読める
  • ④スキルアップに役立つ最新動画セミナー
ほか、使えるサービスが盛りだくさんです。<有料会員の詳細はこちら>
この記事をいいね!する