オンライン化した家電やITの見本市「CES」で、世界最大規模の広告主企業であり、日用品大手の米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)チーフ・ブランド・オフィサーのマーク・プリチャード氏が講演した。ニューノーマル時代にマーケティングや広告の業界で起きている変化とP&G流の対応策を延べた。
パンデミック、経済の停滞、米国の人種差別問題、気候変動と、複数の大きな社会問題が次々と押し寄せている。広告業界でも変化の時代が続いている。テレビ広告が落ち込む一方でネット広告が広がったものの、その信頼性は揺らいでいる。
そうした中で、どう変革をリードし続けるのか。P&Gでは「継続的に消費者体験を再発明し続けている」とプリチャード氏は語る。製品の機能や品質だけでなく、パッケージ、ブランド展開、販売方法、価格などの要素を組みあわせ、「もはや買わずにはいられない」というほど優れた消費者体験を生み出す。それが市場の成長、ブランド価値を高めることにつながる。同社の183年の歴史の中で培った、起業家精神を持ち続けるという意識がそれを実現させているのだという。
製品について正しく伝えることも、ブランド価値を高め、消費者体験を向上させるために重要だ。その取り組みの一部を、今回オンライン化したCESの展示に見ることができるという。「P&G LifeLab」というVR(仮想現実)空間の中で仮想的なブースを構築し、電動歯ブラシの動きを説明する動画、実際の自宅を模した空間の中で除菌スプレーの効果などを見せた。
ここ数年はネット広告の状況にも変化が生じている。閲覧履歴データ「クッキー」を使って配信された広告を見ることで、「追跡されているのでは」といった不信感や違和感を持つ消費者もいる。プライバシーを守るという観点でも、各国ではクッキー規制の動きが相次いでいる。プリチャード氏は「クッキーは間もなく除外されるようになるだろう」と見る。P&Gでは、消費者から許可を得て自社が持つ顧客データ(ファースト・パーティー・データ)を扱うという方針とし、各種メディアに広告を出稿するなどの業務も社内で内製化していくという。
広告の内容も、時代に合わせた変革を推進する。新型コロナウイルス感染症が拡大する中、どう部屋の清潔さを保つのか、マスクをしながらどう顔のスキンケアをするのかと、といった具体的な情報が求められている。そこで製品の使い方をじっくりと説明する広告を提供し始めているという。「その製品がどんなもので、どう使うのか。さらには、なぜそれを選ぶべきなのか。これらを伝えることで、大きな効果が出る」(プリチャード氏)
ブランド力を高めるために重要なもう1つの要素は「良き市民」としての姿を見せることだという。COVID-19と戦い、パンデミックを抑えるためにどんな取り組みをしているかを伝えるのはもちろん、P&Gでは、性別や人種による差別や不平等の是正を目指す企業であることをアピールしている。
具体的な活動としては、広告に関わる仕事をする人々の女性と男性の比率を50%ずつに、さらに黒人は13%でアジア系は6%など従業員の人種比率を米国内の人種比率に合わせるという。こうした取り組みが「社会経済の発展につながり、究極的には購買力と市場の拡大につながる」(プリチャード氏)と自信を見せる。
ヘイト発言などを許容する悪質なオンラインメディアにはP&Gの広告を表示しないといった地道な取り組みも進める。とはいえ「正直悪質なコンテンツの監視に膨大な時間をかけるのには疲れを感じている」(プリチャード氏)と心情を語り、民間企業が自浄できないのであれば、歴史が証明してきたように政府が介入する時期かもしれないと述べた。
「時間を使うのであれば、クリエイティブかつ革新的で善良であることに取り組みたい。そして成長につなげていきたい」とプリチャード氏。最後に、P&Gが21年内に社会を良くするために2021の活動に参加するというキャンペーンを紹介する動画を紹介し、講演を締めくくった。
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