2020年に“コロナショック”に見舞われた株式市場。年末には日経平均株価が2万6000円台を記録するなどV字回復を果たしたが、依然として先行きは読みづらい状況が続く。経済学者の伊藤元重氏は、市場活性化の要を「デジタル」&「グリーン」と読む。20年の総括と、国内外で今後注視すべきポイントも聞いた。
※日経トレンディ2021年2月号の記事を再構成
2020年は3月に日経平均が1万6552円まで下落し、「コロナショック」といわれた株式相場だが、12月には2万6000円台を記録するV字回復を果たした。しかし、コロナ禍の長期化や日米共に政権交代が起こるなど、今後の市場がどうなるのか読みづらい状況だ。そこで、経済学者の伊藤元重氏に20年の総括とこれからの世界経済で注視すべきポイントを聞いた。
――まず経済がここまで持ち直した理由を教えてください。
各国の中央銀行や政府がかつて無い規模で介入したことで、金融危機が起きずに済みました。リーマン・ショックのときは、日本の1人当たりのGDPが危機前の水準まで戻るのに7年近くかかりましたが、コロナの場合はダメージが直撃した業種以外は持ち直しが早いという期待もあるでしょう。
今回は、日本銀行をはじめ世界の主要中央銀行が資産を大量に買っていますし、金利を下げていますから株式市場は活況です。しかし、現在は軟調な実体経済とのギャップがかなり大きくなっていることが懸念されます。
特にGDPの動きは注視すべきで、今後の実体経済を見極める指標となります。中長期的には、遅行指標となる失業率のようなものも見なくてはいけません。特に大きな危機の前後では、経済の潮目が変わる可能性が高い。実態をしっかり見極めることが大切だと思います。
――現状は“コロナバブル”で、いずれ調整局面に向かうということですか。
非常に皮肉な話ですが、景気が良くなるほど株価下落のリスクが生まれます。今は低金利・低成長・低インフレの3低だから借金しても困らないし、政府も財政赤字が困らないわけですが、景気が良くなり金利が上がると、株価や企業の利子負担や政府の財政負担が増えます。相場の最大のリスクは、景気改善そのものであるというわけです。金利が上がれば株式市場に流れるお金の量も減り、調整局面は必ずある。新しい変化の中にはリスクがあることを意識しておきましょう。
――日本で20年に政権交代がありました。安倍政権と菅政権の違いは。
安倍前政権の8年間を振り返ると、経済規模を示すGDPでは20年ぶりに過去最高水準を回復しました。GDP比で7%あった財政赤字は3%に下がり、失業率もそれ以前の5%から2%に下がった。株価は2.5倍になって企業は黒字が増えました。デフレマインドを払拭したという意味で金融緩和は効いたと思います。
菅政権での1つの柱は、この安倍前政権がやったデフレ脱却のための需要喚起を継承することでしょう。もう1つは前政権で足りなかった部分。私は「サプライサイド政策」と言っているのですが、民間企業の活力を高めて潜在成長率を上げていくような政策を強力に打ち出すことだと思います。コロナ危機が起きたときの、国民に特別定額給付金10万円を配るとか、雇用調整助成金を使うとかは危機対応でした。それだけで経済が持続的に回復するわけではありません。これからリカバリーのプロセスになると、経済を活性化させなくてはいけない。サプライサイドの改革が必要です。
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