
店に来てもらえないのであれば店が行けばいい。三井不動産はそんな逆転の発想で新たなサービスを創出しようとしている。「移動商業店舗」プロジェクトを立ち上げ、飲食から物販、サービスまで「動く店舗」を全国各地に配置する計画だ。オルビスはAI(人工知能)を使った「未来肌シミュレーション」を公開。発想の転換やテクノロジーの活用でセレンディピティーを生み出す試みを紹介する。
リアル店舗での買い物の機会が減ったことで、「一生モノ」に出合うセレンディピティーが失われつつある。どうすれば「人」と「物」に生じた距離を埋められるのか、企業が知恵を絞る中、新たな取り組みも次々に生まれている。
「移動店舗」で買い物体験を変える
店に来てもらえないのであれば、店の方が出向けばいい。買い物に行くという概念を変えるかもしれないのが、三井不動産が掲げる「移動商業店舗」プロジェクトだ。
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フードトラックのようにクルマと店が一体となった移動型店舗を列島各地で展開するという構想だが、「移動商業」をうたうだけあって、店舗は飲食に限らない。
2020年9月から12月まで、東京の日本橋、豊洲、晴海、板橋と千葉市の5カ所で順次行われた実証実験には、10業種11店舗が参加した。抹茶クレープや「牛すじ肉めし」から、雑貨、コスメ、アクセサリー、オーダースーツ、お香、地方の特産品まで多彩なラインアップで、包丁研ぎや靴修理の専門店、整体サロンも軒を連ねた。商店街が丸ごと動くようなスケールだ。
「街に埋もれたコンテンツや、EC(電子商取引)にしかない店舗と思いがけず出合える、いわゆるセレンディピティーを提供できると考えている」と狙いを語るのは、三井不動産ビジネスイノベーション推進部主事の後藤遼一氏だ。
三井不動産は、ららぽーとや三井アウトレットパーク、コレドなど数多くの商業施設を展開し、ECでは「&mall(アンドモール)」を運営している。移動商業店舗は、いわば第3の売り場として「実店舗とECをつなぐ架け橋になる」と後藤氏はみる。
生活圏に新たな店が入り込むことで、思いがけない商品と出合う可能性は高まる。気に入れば、実際の店舗まで足を運んだり、ネットでまとめ買いしたりといった購買行動にもつながる。つまり、移動商業店舗をハブとして、リアルとデジタルの垣根を越えたシームレスな買い物ができるようになるのだ。
店側にとっても移動店舗は新たな顧客との接点になる。後藤氏は「ピークタイムキャラバンコースが組めることもメリットだ」と指摘する。例えば、平日昼はオフィス街へ向かい、夜はタワーマンションの近くで営業する。人が多く集まるピークタイムを狙って、時間帯によって機動的に場所を変えることで、効率的に売り上げを伸ばせるというわけだ。
「動く床を貸す」という発想
さらに、これまでの街づくりの知見を組み合わせれば、エリアや場所、時間帯に応じて最適な店舗をピンポイントに配置することも可能になるという。同じ平日朝でも、住宅街ならベーカリーや靴磨き専門店、オフィス街ならカフェやスムージー店、休日朝の住宅街ならクリーニング店やネイルサロンといった具合だ。
移動店舗は比較的場所もとらず、不動産に比べて投資も軽い。オフィスビルやマンション、商業施設、駐車場と今後は出店場所を拡大していき、将来的にはワークスペースやホテルの移動式サービスも展開したいという。「これまでは不動産会社として動かない床を貸してきた。これからは移動販売車両をリースし、動く床を貸すということも考えている。新型コロナウイルス感染症が終息した暁には、にぎわう街を日本中につくっていきたい」(後藤氏)。
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