オンラインでセレンディピティーはどうつくる?

新型コロナウイルス感染症の影響で2020年3月からオフィス閉鎖を貫くSlack Japan(東京・千代田)。「全社員リモートワーク」を続けた結果、部署の垣根を越えたセレンディピティーが日常的に生まれるようになった。その中心にあるのは、もちろんビジネスチャットの「Slack(スラック)」。短時間で新たな企画が立ち上がるという、その実例は会えないという制約を飛び越えるヒントに満ちている。

 それは、驚くほど鮮やかなパス回しだった。緊急事態宣言下の2020年4月、1人の社員の何気ないSlack上でのつぶやきが、1時間後に部署横断のプロジェクトに成長したのだ。

前回(第2回)はこちら

【特集】オンラインでセレンディピティーはどうつくる?
【第1回】 「ひらめき」の作り方 コロナで消えた2つのセレンディピティー
【第2回】 カヤック流ブレスト術「リモートでも無限にアイデアを生む」方法
【第3回】 オフィス強制閉鎖でも共創が加速 Slackの「雑談を生む」仕掛け ←今回はココ

 Slackやビデオ会議システムのZoom(ズーム)を使ってオンラインで勉強を教えるサービスを、京都大学の学生が開設。こんなプレスリリースを、エグゼクティブ担当のある社員が見つけ、社内のSlack上にこの話題を投稿した。すると、それを見た営業担当が即座に反応。コロナ禍で直接対面で勉強を教えるのが難しくなっていることを挙げ、「Slackの教育分野への導入例を紹介するウェビナーを開いたらどうか」と提案した。

 すると、別の営業担当やカスタマーサクセス担当、マーケティング担当らが続々と賛同のコメントを寄せ、あれよあれよという間にプロジェクトチームが発足。イベント担当を巻き込み、「30分程度MTG(ミーティング)して、GOするのでどうですか?」と早速スケジュール調整に入った。

 最初の投稿から1時間で企画が立ち上がり、2日後にキックオフ。翌5月にはSlackを全校導入している近畿大学とN高、それに一部導入中の京大、慶応大を加えて、実際に大学関係者らを招いたセミナーイベント「Slack教育機関向けウェビナー」の開催に至った。

1人の投稿が瞬く間に全社に広がり、企画化につながった
1人の投稿が瞬く間に全社に広がり、企画化につながった

 何気ない投稿をきっかけにアイデアが生まれ、形になる。「そんなことはざらにある。新しい企画が爆速で立ち上がるのは日常茶飯事だ」とSlack Japan日本法人代表の佐々木聖治氏は明言する。コロナ前と比べて、部署をまたいだ共創は明らかに加速しているという。

Slack Japanの佐々木聖治日本法人代表は「空間を超えて自然発生的にアイデアが生まれている」と手応えを語る
Slack Japanの佐々木聖治日本法人代表は「空間を超えて自然発生的にアイデアが生まれている」と手応えを語る

オフィスは「長期ロックダウン中」

 Slackを提供する米スラック・テクノロジーズは20年3月6日から、日本を含む全世界のオフィスを閉鎖した。今もなお全社員がリモートでのみつながっている。スチュワート・バターフィールドCEO(最高経営責任者)は、各国で働く2000人以上の社員に向けて早期にメッセージを発信した。

 「It's a Marathon, not a sprint(短距離走ではなくマラソンだ)」

 Slackというビジネスツールを開発してきたからこそ、我々自身が今まで以上にSlackを使ってイノベーションを生もう。そんな決意表明でもあった。

 創業当初からバターフィールド氏は「Work hard and go home」と口にしてきた。集中してしっかりと働き、早く切り上げる。オフィスを強制的に“ロックダウン”した今、このスローガンを社員一人ひとりが自宅で実践している。

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