
オンライン上でブレスト(ブレインストーミング)を繰り返し、生産性をぐんと引き上げた企業がある。「面白法人」を標榜するカヤックだ。新型コロナウイルスの感染拡大を機に、いち早く我流のブレスト術を編み出した。その結果、出社していても、ミーティングは「あえてオンライン」というのが珍しくなくなったという。セレンディピティーを生み出す、新時代の思考回路に迫った。
「オンラインブレストは任せろと思っていた」
2020年4月7日。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、列島初の緊急事態宣言が出されたこの日、カヤックのプロデューサー泉聡一氏は、自信を持って新サービスを送り出した。「KAYACLINIC(カヤックリニック)」である。
カヤックのクリエイター陣が、プロモーションやR&D(研究開発)にまつわる相談を、企業や自治体から無料で引き受け、オンライン上で解決に導く。まさにニューノーマルを先取りした試みだった。
多くの企業が慣れないリモートワークに苦闘する中、カヤックは既に「リモートブレスト(オンラインブレスト)」を極めていた。なぜ、これほど早く社会の変化に順応できたのか。泉氏いわく、きっかけは焦りだった。
新型コロナウイルス感染症が猛威を振るい、オフィスに集まるという日常が突然、奪われた。「仕事は面白くないと意味がないと思っていた。人としゃべる、遊ぶように働くのが好きなのに、家で1人黙々と作業するなんて僕には耐えられない。それだと、普通の働き方になってしまう。オンラインでもこれまで通り、みんなで集まってブレストをしたい。でも、人をたくさん集めるには、これまで会議室でできていたことを、オンラインでスマートにできないと駄目。だから、とにかく最初は、じたばたと毎日、下手なりにブレストをやっていったんです」と泉氏は振り返る。
まずは普通にオンラインでつないで、話してみた。しかし、結果は惨憺(さんたん)たるものだった。「ブレストは盛り上がるにつれて、どんどんテンポが速くなる。オンラインだと、ちょっとした回線の遅延で、リズムが乱れ、盛り上がりきらない。5人参加していても、2人しかしゃべっていないことも多かった」(泉氏)。
そこで思いついたのが、手軽に共同編集できるツールを取り入れること。Googleスライドを使って、1人ずつアイデアを書いていき、発表し合う形に切り替えた。続いて「スプリント」と呼ばれる会議手法を取り入れ、アイデア出しは3分以内という制限時間を設けた。面白いと思ったアイデアには、お互いに色を塗り「いいね」という気持ちを伝えた。すると「まるでホワイトボードに付箋を貼ったり、メモを書いたりする感覚でブレストが進んだ。これでいけるな、と思った」(泉氏)。
ブレストを繰り返すことわずか半月。泉氏は暗闇の中に光を見いだした。「オンラインブレストは現状把握→課題発見→アイデア出しという3つのステップに分割したらうまくいく」と突き止めたのだ。冒頭のカヤックリニックはこの手法で、クライアント企業も巻き込んでブレストを重ね、次々と課題解決につながるアイデアへと昇華させていった。「ある意味、オンラインという制約の中でルールを作ったことで面白くなったし、成果も上がった。仕事がよりゲーム化した」と泉氏は実感を込める。
「オンラインのほうが圧倒的に早い」
カヤックには昔からブレスト文化があった。誰かが「ブレストやりまーす」と言えば、どこからともなくオフィス内にいる人々が集まってくる。社内でも指折りの古参社員であるディレクターの村井孝至氏は、オフィスに「ブレスト島」があったと証言する。
「カヤックでは1人で抱え込まずに仲間の力を最大限活用して、みんなで考えていく。そのための技としてブレストがある。悩むのは意味がない。進むための方法を考える。カヤックでは、相手のアイデアを否定せず、乗っかる、広げることを大事にしている」(村井氏)
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