家や部屋の使われ方を見ていくと、生活の変化が明らかになる。博報堂生活総合研究所の研究員が、さまざまなデータを基に生活者の消費や行動の変化を追う本連載の第39回、着目したのは「住」だ。なにやらリビングの使われ方に変化が起きているという。その変化と理由とは。

 コロナ禍以降、テレワークの定着などで以前に比べて家の中ですごす時間が増えた方もいらっしゃるのではないでしょうか。今回は、博報堂生活総合研究所のデータを基に、衣食住の中でも生活の舞台となる「住」に関する生活者変化についてご紹介します。どうも家の間取りの中で、リビングと個室の位置づけが変わってきているようなんです。

リビングと個室の位置づけが変わってきている? その背景にあるものとは(画像/Shutterstock)
リビングと個室の位置づけが変わってきている? その背景にあるものとは(画像/Shutterstock)

充実させたいのはリビング? それとも個室?

 博報堂生活総研がWeb上でデータを公開している長期時系列調査「生活定点」の中にはさまざまな分野に関する調査項目が存在しています。その中でも「住」に関するある意識の項目で気になる傾向がありました。「個室よりも家族で一緒にすごすスペースを充実させたい」と答えた人は1998年には約半数の49.3%存在しましたが、それが徐々に減少し、直近では30.3%にまで減っていたのです。

 この結果をシンプルに解釈すれば“家族で一緒にすごすリビングや居間よりも個室の方を充実させたい”という意識が強まっているようにも見えます。

「個室よりも家族で一緒にすごすスペースを充実させたい」の回答率の推移(全体値)
出典:博報堂生活総合研究所「生活定点」調査
出典:博報堂生活総合研究所「生活定点」調査

 私自身は未就学児の子どもがおり、個室よりも家族で一緒にすごすリビングを充実させたい派なので、この結果は意外でした。もしかすると、社会的にDINKS(子どものいない共働き夫婦)世帯が増加し、子どものいる世帯が減少しているから個室志向が強まっているのでは? と考えて「子あり世帯」と「子なし世帯」に分けて傾向を見てみました。

 すると、確かに「子あり世帯」は「子なし世帯」に比べて「家族で一緒にすごすスペースを充実させたい」と思う人が多いものの、時系列で波形を見るとやはり漸減傾向は変わらないことが分かりました。

「個室よりも家族で一緒にすごすスペースを充実させたい」の回答率の推移(子あり世帯/子なし世帯)
出典:博報堂生活総合研究所「生活定点」調査
出典:博報堂生活総合研究所「生活定点」調査

 一方で、一戸建て住宅の展示場やマンションのリノベーションサイトなどでは、個室を小さくしたり、部屋数を減らしたりして、リビングを広くするのが近年のトレンドとして紹介されています。

 これは、前述した生活定点で表れている傾向と食い違っているようにも見えます。一体、この矛盾は何なのでしょう。

「寝る」以外の生活行動はリビング派が多数

 そこで私たちは生活者に、さまざまな行動をリビングと個室のどちらで行っているのかを聞く「住まいに関する生活者調査」(首都圏・名古屋圏・阪神圏/20~69歳男女1500人/インターネット調査)を23年1月に実施しました。それぞれの行動について、リビングと個室のどちらで行うことが多いのかを聞いた結果が以下の図です。「寝る」に関する行動(「充分に眠る」「昼寝・仮眠する」)は個室で行う人が多かったものの、それ以外の行動はすべて、リビングで行う人の方が多いことが分かりました。

日常の行動をリビング、個室のどちらで行うか
出典:博報堂生活総合研究所「住まいに関する生活者調査」
出典:博報堂生活総合研究所「住まいに関する生活者調査」

 各分野の行動を見てみましょう。「食」に関する行動はリビング派が圧倒的に多い、というのは予想通りでした。ただ「誰かと携帯や音声通話で話す」「誰かとメールやアプリでやり取りをする」といった家族以外とのやり取りまで、個室派よりもリビング派が多いのは少し意外です。さらに「仕事や勉強、宿題をする」「オンライン会議などに参加する」に関してはさすがに個室派が上回るかと想定していましたが、実際はこちらもリビング派が上回りました。

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