20代は○○、30代は○○、40代は○○……。価値観や嗜好を年代/年齢によって塊として捉えることはよく行われがちだ。だが、以前は大きかった年代による価値観や嗜好の違いが、実は年々小さくなっていることが分かってきたという。今回は、博報堂生活総合研究所の研究員が、30年にわたる長期時系列調査「生活定点」のデータを基に年代による違いが小さくなっている事柄に着目し、生活者の変化を徹底分析する。
「個の時代」「多様性を尊重する時代」……そんな時流の中、価値観や嗜好の多様化が進み、生活者をまとまりで捉えることが難しくなってきています。マーケティングの現場からも、年代でターゲットを区分したりポートフォリオを構築したりしても、うまくいかないことが増えてきたという声をよく耳にするようになりました。皆さんの中にも同様にお感じの方がいらっしゃるのではないでしょうか。
そんな中、私たち博報堂生活総合研究所が30年間続けている長期時系列調査「生活定点」の分析過程で、大変興味深い現象を発見しました。2022年の最新調査の年代別回答を20年前や30年前と比べると、多くの項目において、かつては年代/年齢によって大きかった価値観や嗜好の違いが、年々小さくなっていることが分かってきたのです。
年代による違いが小さくなっている項目と、大きくなっている項目の数を比較してみたところ、違いが小さくなっている項目数は30年間で見ると70項目、20年間で見ると172項目にのぼり、違いが大きくなっている項目数を大幅に上回っていました(図1)。
「生活定点」は、1992年から2年に1度実施していて、生活者の日ごろの感情や生活行動、消費態度、社会観など、多角的な質問から生活者の意識や欲求が、長期間でどう変化したのかを見ることができます。「経済格差」など、量的な面において社会のいたるところに“差”が厳然と存在する日本も、こと生活者の「意識や欲求」といった質的な面で見ると、実は“違い”が小さくなりつつあるというわけです。
私たちは、この「生活者の意識や好み、価値観などについて、年代/年齢による違いが小さくなる」現象を「消齢化(しょうれいか)」と名付け、注目しています。また、この「消齢化」が進む日本社会を「消齢化社会」として捉え、この先の生活者の暮らしや社会の変化について研究を進めています。
「消齢化」という現象を通じて生活者や社会を捉え直すことで、新たな可能性が見える。私たちはそう確信しています。この記事が皆さんにとって新たなビジネスチャンスを発見する一助となることを願いつつ、本題に入っていきたいと思います。
「消齢化」を示すグラフ波形の3つのパターン
繰り返しになりますが、「消齢化」とは「年代/年齢による価値観や嗜好の違いが小さくなる」現象を指します。この現象を示すグラフの波形は、大きく3つのパターンがあります。
1つ目は、「夫婦はどんなことがあっても離婚しない方がよいと思う」のように、各年代の回答が「減少しながら近づいている」パターン。従来の結婚規範に縛られない人が増えたことで違いが小さくなっています(グラフ1-1)。2つ目は、「携帯電話やスマホは私の生活になくてはならないものだ」のように、各年代の回答が「増加しながら近づいている」パターン。高年層もスマホを使いこなすようになり、違いが小さくなっていると考えられます(グラフ1-2)。そして3つ目は「将来に備えるより現在をエンジョイするタイプだ」のように、各年代の回答が「中央に集まりながら近づいている」パターン。若年層(特に20代)で「現在を楽しみたい」意識が減少する一方で、高年層では増えており、結果的に違いが小さくなっています(グラフ1-3)。
こういったグラフ波形のパターンは、衣食住、人間関係、生活価値観など様々な分野で確認されました。消齢化は、限られた分野のみで起こっているのではなく、生活全体に関わる大きくて長期的な変化潮流といえます。
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