生成AIは「ものを買う」体験を大きく変えるかもしれない――。東京大学大学院工学系研究科教授の松尾豊氏は、言語系生成AIによって人々は意思決定がしやすくなり、その結果「コンバージョン(成約)につながるようになる」と断言する。急速なAI技術の発展に取り残されないためにはどうすればいいのか。IT批評家の尾原和啓氏が問いかける。
尾原和啓氏(以下、尾原) ChatGPT(チャットGPT)のような大規模言語モデルによって様々な領域が変わっていく。中でもマーケティング領域の変化がもっとも速いだろう、というお話でした。どんな順番で、どのように変わっていくと思いますか?
松尾 豊氏(以下、松尾) 販売に近いところはまず先に変わるでしょうね。EC(電子商取引)のつくり方も変わると思います。
尾原 確かにそうですね。生成AIによって、顧客へのメール送信や、バナーや動画の制作といった作業が自動化されることに着目しがちですが、そもそも「ものを買う」体験が大きく変わる可能性があるわけですから、マーケティングの方法も変わるはず、と。
松尾 そうです。いいお店での買い物って、基本的に「会話」で成立していますよね。リアルな店舗に行って、店内で検索はしないじゃないですか。
▼前回はこちら 東大松尾教授に聞くChatGPT「マーケティングの周辺が最も変化」尾原 Transformer(トランスフォーマー、前回記事を参照)の何が画期的だったかといえば、重要な情報に注目できるAttention(アテンション)の発明ですよね。企業がこれまで収集した顧客データの中から、どこに注目して体験を作っていくのがいいか、その部分も学習してくれるわけですから、なんというんでしょう……シンプルですが「おもてなし」ができるというか。
松尾 「売れる」ようになるはずです。つまり、コンバージョンする。ECの領域において、コンバージョンにつながるプロダクトはあっという間に普及します。
購入の意思決定をするには、不安要素をつぶしておく必要がありますよね。「この商品が気に入っているけど、ほかにどんな選択肢があるのか?」とか、「購入後に苦情を言っている人はいないのか?」とか。車を買うなら「メンテナンスに年間どのくらいのコストがかかるのか?」。そういったことをいくらでも質問できるので、意思決定をしやすくなると思います。
尾原 なるほど。これまではいろいろ確認したいことがあっても、誰に聞いていいのか分からなかったり、そもそもお店の人が正直なところを教えてくれるのか疑ってしまう部分があったりして、意思決定に時間がかかっていた。それを言語系の生成AIが最短距離でアシストすることで、自然と納得して買い物ができるようになる。まさにコンバージョンですね。
松尾 車や家など、これまで意思決定に時間がかかっていた商品ほど、その差分が大きいのではないかと思います。
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