ユナイテッドアローズのデジタル戦略を推進する藤原義昭CDO(最高デジタル責任者)は、顧客とのコミュニケーションを一気通貫で行うため社内体制の構築を目指す。21年4月の入社からわずか1年半ほどで、なぜここまで抜本的な改革に取り組むことができたのか。IT評論家の尾原和啓氏が迫る。
▼前回はこちら ユナイテッドアローズがUXで解明 LTVが高い顧客の共通点とは?尾原和啓氏(以下、尾原) お話を聞いていると、自社EC(電子商取引)サイトをリニューアルしてからのこの1年目は、売り上げというよりもプロセスのイノベーションの側面が強かったのではと思いました。実際、手応えはいかがですか?
藤原義昭氏(以下、藤原) プロセスを変えられているかというと、まだ全然ですね。かっこいい言い方をするなら、アジャイル的に動かしてはいるんですが。
オンラインストアのオペレーションにはなるべく再現性を持たせて、社内の一つ一つの業務に対してPDCA(計画・実行・評価・改善)の仕組み化を進めています。考えなくていいところには労力を割かなくても済むようにしないと、スタッフがお客様に向き合えないと思うので。イノベーションを起こしているかというと……尾原さんが期待されているようなものではないかもしれません。
尾原 いえいえ、そうした細かな積み上げの話をお聞きしたかったのです。それに、新型コロナウイルス禍から少しずつリアル(現実)の場でのビジネスが戻ってきています。常に状況が変化する今の時代では、柔軟に対応できる「アジャイルであること」が大事になります。インパクトを出すことに集中しつつ、同時に変化にも柔軟でなければいけない。このバランスを取っていくことがすごく大事ですよね。
藤原 プロモーションやお客様に向き合う施策なども、今ではほとんどがデジタルです。デジタルの一番いいところは、小さな失敗をたくさんできることだと思っています。店舗をつくるとなると時間がかかりますし、お金の面もそれなりに大変です。でも、デジタルなら社外のプロを集めて、小さくて動きやすいチームをつくることができます。
尾原 そうした取り組みの1つとして、ユナイテッドアローズは2022年10月にSNS(交流サイト)専門部署を立ち上げて、InstagramとTwitterをPRの柱にしていくと発表されています。Instagramのほかに、なぜ流行のTikTokではなく、Twitterだったのですか?
藤原 Twitterは世の中に波及していくので、PRの手段に一番合っていると思いました。Instagramはファンになった人向け、Twitterはまだ商品を買っていただけていない人にリーチできるので、役割分担ですね。TikTokについては、ファッション企業がTikTokを活用するならどうすればいいのかなと、今頭の中で構想しているところです。
ユナイテッドアローズには一定のブランド力があり、ソーシャルメディアのアカウントも比較的フォローしていただきやすいと思っています。だけど、我々だけで適正な運用ができているかというと、やっぱりそうではないわけです。そういう部分は外部からプロに来てもらって、一緒に取り組んでいます。
尾原 押さえるべき流儀は押さえる、と。
藤原 押さえるべきところをしっかり押さえる運用を行うのと、あとはお客様に対するコミュニケーションは一気通貫であるべきだと思うので、広報やEC部門を横軸でつなげる活動に力を入れています。社内のジャーニーを整える、というか。
尾原 なるほど。カスタマージャーニーに合わせて社内のジャーニーも整えていくことで、組織の中のみんなで見ていくわけですね。
社内の仕組みづくりは、実際どうですか? 勝手なイメージですが、日本の組織だと部署の仕事をするのに手いっぱいで「新しい仕事を増やさないでほしい」といった雰囲気があったり、手を挙げると自分の仕事を増やすことになるので、なかなか自主的に取り組む人がいなかったりしませんか?
藤原 私はすぐに手を挙げてしまうので、仕事が増えちゃうんですよ(笑)。でも、そこも含めて楽しめたらなと思うんです。こうした取り組みの説明って、どうしても「HOW」に寄り過ぎてしまう。もっと上流の「WHY」の部分からマネージャーがしっかり伝えていくことが大切です。
もう一つ大切なのは、組織体制ですね。当社は今期、事業本部制から機能本部制に切り替わりました。これによって、自分1人で仕事をしていても売り上げがつくれない仕組みになりました。
尾原 横断型組織になったのですね。横連携をしないと成果が出せないとなると、評価軸が重要です。組織として有機的に動けるように、評価面で工夫をされていることはありますか?
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