アパレル大手のユナイテッドアローズが、2022年3月に自社EC(電子商取引)サイトを刷新した。顧客データをどう生かし、OMO(オンラインとオフラインの融合)をどう実現させるのか。同社で21年4月からECを含むOMOの推進を担う藤原義昭氏に、IT評論家の尾原和啓氏が迫った。
22年3月にリニューアルしたECサイト「UNITED ARROWS ONLINE(ユナイテッドアローズ オンライン)」では、システム自体を刷新して表示速度を向上させたほか、検索機能や店頭で利用できるバーコードスキャナー機能など商品情報を見つけやすくするための操作性を向上させた。同社では、この新生ECサイトを基点に、店舗とECを連係させるOMOを推進していく。
このECサイトをはじめ、ユナイテッドアローズのデジタル変革を担う人物が藤原義昭氏だ。新卒で入社したリユース大手のコメ兵では、ECサイトを一から立ち上げるなどデジタル戦略を推進してきた。その経験を生かし、21年4月からはユナイテッドアローズでCDO(最高デジタル責任者)として手腕を振るっている。
今回のリニューアル後に従来と比較してスマホアプリのダウンロード数が100万件増加するなど実績も見えてきた。EC刷新で「ユーザーの使い勝手」や「社内のPDCAを回しやすくする構造」を目指したという藤原氏に、サイトリニューアルの背景にある狙いを尾原氏が聞いた。
尾原和啓氏(以下、尾原) 22年3月にオンラインストアをリニューアルされました。どんな部分に力を入れたのか、改めてリニューアルのコンセプトを聞かせていただけますか。
藤原義昭氏(以下、藤原) オンラインストアだけでなく、基幹システムも老朽化していました。ユナイテッドアローズとしてはちょうどいろいろなものを変える時期でした。新しい基盤に入れ替えながら、同時に今までできていなかったところに着手しよう、というのが今回のリニューアルです。
尾原 基盤を入れ替えながらてこ入れをしていくとなると、工程をいくつかのステップに分割しながら慎重に進めていくわけですよね。
藤原 はい。相当大変です。システム刷新のほかにも、ECにはメディアの側面もあります。今回のリニューアルではそこもしっかり作り込むことにしました。新しいお客様との接点や、ECにおける購買体験を考えると、従来のようにただ商品を並べて買っていただく、というところから進化させないといけない。まだまだ完成形とは言えないですが、変えるべき部分に着手できたという状況です。
尾原 表面的に見える部分と見えない部分とで、こだわりや改変のポイントがあると思います。それぞれ教えていただけますか。
藤原 見えている部分だと、UX(ユーザー体験)にはこだわっています。ただ、それは「とっぴなものを作る」という意味ではありません。お客様に使ってもらえないと意味がないので、ECサイトとして本当にベーシックなものが確実にある、という点を重視して作りました。
見えない部分の話をすると、ECサイトを訪れるまでの「集客」、ECの中での「接客」、その後の「CRM(顧客情報管理)」の3段階でお客様にいかに購入していただくか、という設計から始めています。重視しているのは1回ごとの売り上げよりもLTV(顧客生涯価値)です。
尾原 新しいECで顧客をつなぎ、生涯を通じてもたらす利益を最大化していくということですね。一般的にロイヤルティーの高い顧客ほどLTVも高くなるので、いかに自社やブランドのファンになってもらうかが重要です。ブランドを好きになってもらえれば、高価な商品も購入してもらえて利益率も上がります。
藤原 LTVが重要だとみんな頭の中では分かっているんですけど、なかなか日々の営業活動の中で向き合えないですよね。どうしても「今日の売り上げ」などに意識が向いてしまう。
ユナイテッドアローズのCDOに着任して最初に取り組んだのは、顧客データの分析とパネルリサーチ(特定の対象者に複数回のアンケートを実施し、顧客の意識を探ること)でした。ECサイトのリニューアルは既に要件定義が終わっていたのですが、サイトが完成してからお客様のことを調べていては遅いですから。
尾原 開発を進めながらお客様のことをしっかり知って、今後どうあるべきかという話を並行して進めていたわけですね。
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