イーロン・マスク氏が買収した米ツイッター(以下、Twitter)の行方について、経営者の國光宏尚氏とIT批評家の尾原和啓氏が討論を繰り広げた。対談の後半となる本記事では、SNS(交流サイト)であり、広告配信プラットフォームであるTwitterが、今後どう変化していくかを深掘りし、展望していく。

國光宏尚氏とIT批評家の尾原和啓氏が、イーロン・マスク氏が買収した米ツイッターの展望を語りつくした
國光宏尚氏とIT批評家の尾原和啓氏が、イーロン・マスク氏が買収した米ツイッターの展望を語りつくした
▼前回はこちら イーロン・マスクの“脳内”を大胆予想 國光氏×尾原氏が激論

「足元の収益」と「未来の成長戦略」

尾原和啓氏(以下、尾原) 2022年4月にカナダで開催されたスピーチイベント「TED2022」でイーロン・マスク氏が電撃的に登壇しました。

 そこで、TED代表のクリス・アンダーソン氏が、当時「Twitterを買収する」と言っていた彼に聞いたんです。「どういうプランをお考えなんですか?」と。僕はこの時、ステージから3メートルくらいの場所で見ていたんですけど、彼は「Twitterを分散プラットフォームに持っていく」みたいな話をしたんです。

 國光さんは、そのへんの中期的なTwitterの方向性について、どう思いますか?

國光宏尚氏(以下、國光) 僕がもしイーロン・マスクだったら、「足元でやるべきこと」と「未来の成長戦略」の2つに分けると思います。

 足元の目標は、どこをどう考えてもキャッシュフローベースの黒字化だと思うんですね。いったん黒字化する。加えて、DAU(1日当たりの平均利用者数)を伸ばして投稿数を増やすという、サイトの中を活性化させるのが基本だと思っています。今回のリストラをチマチマやらずに一気にやりきるのはある意味凄まじいと思います。

國光宏尚氏。gumiを創業し、現在はVRやブロックチェーンゲーム開発のThirdverse(サードバース、東京・千代田)のCEO(最高経営責任者)を務める
國光宏尚氏。gumiを創業し、現在はVRやブロックチェーンゲーム開発のThirdverse(サードバース、東京・千代田)のCEO(最高経営責任者)を務める

尾原 おっしゃる通りです。

國光 それをしつつ、広告モデルだけだと足元が弱いから、一気に課金モデルへ持っていく。すると、ある程度黒字化は見えてくると思っています。

 そして黒字化が見えてきたら、次はTwitter上でのアクティビティーを活性化していく。Twitter上でのアクティビティーの活性化は、「Twitterが外に取られているところを、もう1回戻す」のが最初だと思うんです。

 現実的に、TikTokとかInstagramにないTwitterの強みでいくと、文章をしっかり「読む、読める、書ける」オーディエンスを抱えていることだと思うんですよね。知識の水準も高くて、テキストでしっかりしたやり取りができるオーディエンスがいるのが強みだと考えると、ここで長文のテキストを強化するのは、かなり合理的な判断だと思います。

尾原 とりあえず、クリエイターエコノミーとして課金ができるものは取り入れて、がっちりやるということですね。

國光 その通りです。加えて、動画は明らかにニーズがあります。ただし、エンタメ動画ではTikTokと勝負になってくる。

尾原 日本だと、Twitterは比較的若い方が使っているメディアですけれど、米国だと、比較的高い年齢層のメディアですからね。

國光 Twitterが強いのは「ニュース」「クリプト(暗号資産、仮想通貨)」「ゲーム」です。この3つの領域が世界的にTwitter上で人気です。なので、この領域を掛け合わせた形での動画機能を充実させ、それぞれの中でサブスクなどの課金をしていく。それが、現在のTwitterをどうしていくかの大きなポイントです。

尾原 最近、「Yahoo!ニュース」のコメント欄で携帯電話番号の設定が必須となったことが話題となりました。しっかりと本人確認をして、ブルーの認証バッジの人のリプライしか見られないような選択肢を提供するっていいかもですね。

 言論メディアとして、本人確認ができている人とやり取りしたい人は使いやすくなるし、罵詈(ばり)雑言含め、地獄の釜の中でいろいろなものを見たい人はブルー認証のフィルターを外せばいい。そうすると、Twitter上に二重の言論空間が生まれ、クリエイターエコノミーの課金系も動いていく。

 良質な言論プラットフォームになれば、単価の高い広告も入りやすくなってくる。これが分かりやすい短期の立て直しの方向性ですよね。

IT批評家の尾原和啓氏。音声SNSサービス「Twitterスペース」で國光氏と対談した
IT批評家の尾原和啓氏。音声SNSサービス「Twitterスペース」で國光氏と対談した

スターリンクが新しいネット人口をつなぐ

國光 ここから未来でいくと、尾原さんはどう考えますか? もし尾原さんがイーロン・マスクだったら、どういう未来戦略でいきますか?

尾原 もともとTwitterは、「TwitterのAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース、外部サービスにも組み込めるプログラムの部品のこと)」と「Twitterを見るツール群」のレイヤー型構造で、それを元に戻すという議論があったと思うんですけど、正直僕はそっちの方向はあまりないと思っています。

 先日、マスク氏が語っていましたが、Twitterに決済機能を導入して、最初はデジタルの言論の売買から始めて、新興国などで通常の決済としても使われる「WeChat(ウィーチャット、微信)」のようなスーパーアプリの方向性がいいのかなと思います。

 本当の長期で見ると、現在のインターネットに接続している人々だけでは、マスク氏にとって本領を発揮できる状態になっていません。これから接続する新しいインターネット人口「ラスト35億人」は、米スペースXが提供する衛星通信サービス「スターリンク」によってつながるわけです。

 この「最後のエマージング・マーケット(新興国市場)における決済ポータルは、イーロン・マスクが!」みたいなところまで含めて……というのが、僕の妄想です。

國光 なるほど。Twitter創業者のジャック・ドーシー氏が取締役として戻り、マスク氏とがっつりタッグを組む可能性はあると思いますか?

尾原 両氏は通じ合うところが多いので、手を握る可能性はあります。最終的にドーシー氏が率いるモバイル決済の米ブロック(旧スクエア)ともう1回くっつくというロマンのある世界線もあるんじゃないかと思っています。

國光 ありそうですね。ドーシー氏がTwitterをけん引してきた時、彼はきちんとTwitterのビジョンを示していたと僕は思っています。その時は、「クリエイターエコノミーの中心になる」といったことを話していました。

 Facebookが友達とつながるのに対して、Twitterはピュアに興味関心でつながりますよね。

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