Web3(3.0)の基盤となるブロックチェーン(分散型台帳)領域で、世界の中でもトップを走る日本人起業家がStake Technologies(ステイクテクノロジーズ)の渡辺創太CEO(最高経営責任者)だ。シンガポールに拠点を構え、先端の技術を生み出す27歳は、Web3にどんな未来を見据えるのか。同じくシンガポール在住の尾原和啓氏が直撃した。

Stake Technologiesの渡辺創太CEO(最高経営責任者、左)。慶応義塾大学経済学部卒。インド、ロシア、中国などでインターンシップ活動を経験後、2018年に米国サンフランシスコのブロックチェーンスタートアップ、クロニクルドに就職。帰国後、東京大学大学院ブロックチェーンイノベーション寄付講座共同研究員を経て、19年にStake Technologiesを創業。20年に拠点をシンガポールへ移す。IT批評家の尾原和啓氏(右)とシンガポールで対談した
Stake Technologiesの渡辺創太CEO(最高経営責任者、左)。慶応義塾大学経済学部卒。インド、ロシア、中国などでインターンシップ活動を経験後、2018年に米国サンフランシスコのブロックチェーンスタートアップ、クロニクルドに就職。帰国後、東京大学大学院ブロックチェーンイノベーション寄付講座共同研究員を経て、19年にStake Technologiesを創業。20年に拠点をシンガポールへ移す。IT批評家の尾原和啓氏(右)とシンガポールで対談した

 日本はブロックチェーンやWeb3に関する法律が未整備で、このままでは優れた技術者や起業家が海外に流出してしまう――。そんな危機感がスタートアップ業界だけでなく、国内の政治家の中でも広がっている。活動の場を海外に転じたWeb3の若き才能。その代表が米国シリコンバレーや日本でブロックチェーン技術に磨きをかけながら、2020年にシンガポールへ渡った渡辺創太氏である。

 同氏が立ち上げたブロックチェーン技術開発のStake Technologies(ステイクテクノロジーズ、本社シンガポール)は、21年6月に11億円、22年1月は大手暗号資産(仮想通貨)ファンドのほか、個人投資家では暗号資産イーサリアムの共同創設者として知られるギャビン・ウッド氏、元サッカー日本代表で投資家の本田圭佑氏などから約25億円の資金調達を実施した。

 同社が開発する「Astar Network(アスターネットワーク、以下Astar)」は、ポルカドットと呼ばれるブロックチェーンに接続し、スマートコントラクト(スムーズな契約や決済)を実現するための技術。ポルカドットが100枠だけ持っている外部の接続窓口への審査を勝ち抜き、世界で3番目に獲得した実績を持つ。ビットコインやイーサリアムのような多彩な暗号資産のやり取りを媒介するハブとしての役割を担い、将来は金融のみならず、例えばEC(電子商取引)やゲームなどの多彩な用途が広がっていくと期待されているのだ。

 渡辺氏は1995年生まれのZ世代。ブロックチェーンやクリプト(暗号資産)の未来に可能性を見いだしながら「今のままでは日本は取り残されてしまう」と強い危機感を抱く。Web3の最前線で戦う若き起業家は、どんなビジョンを描いているのか。

Web3の基盤インフラを目指す

尾原和啓氏(以下、尾原)  スマートコントラクトの機能を持つAstarは、2021年12月にポルカドットとの接続を実現しました。これがいかに大きなインパクトを持つことなのか、まず簡単に説明していただけますか。

渡辺創太氏(以下、渡辺)  Astarは、Web3時代のスマートコントラクトハブとして機能するブロックチェーンです。

 インターネットは世界中でつながっていますよね。だからこそ、オンライン会議でシンガポールと日本でも会話ができるわけですけど、実はブロックチェーンはまだつながっていません。厳密に言うとつながっている部分もありますが、手数料が高かったり、処理速度が遅かったりと、つながっているとは言い難い状態です。

 そんな中で、Astarは異なるブロックチェーンをつなぐ役割を担い、Web3の基幹インフラになることを目指しています。

尾原 距離や速度を気にせずにインターネットで世界中とこうしてつながることができるのは、インターネットの通信プロトコル(コンピューター同士が通信をするときの手順や規格)である「TCP/IP」があるからですね。ブロックチェーンは価値を流通する仕組みとしては結構しっかりできているけれども、異なるアプリケーションをまたぐ部分はまだまだこれからです。ブロックチェーンにおいてインターネットのTCP/IPに当たるものが、Astarが接続したポルカドットになるということですね。

渡辺 はい。インターネットがつながってるからこそ、その上に乗っているアプリケーションが価値を発揮するわけです。同様に、ブロックチェーンがつながらないと、その上に乗っているWeb3のサービスは本領を発揮できない。そこで僕らがブロックチェーン同士を「つなぐ役割」を担う。プラットフォームとしてのシェアをしっかり取りに行こうとしています。

「Astar Network(アスターネットワーク)」のWebページ
「Astar Network(アスターネットワーク)」のWebページ

尾原 ブロックチェーンを「つなぐ役割」を果たし、「プラットフォームを取りに行く」という、基幹インフラのビジネスにおいて重要な2つにチャレンジされているわけですね。もともとこの2つに課題意識があったのでしょうか。

渡辺 そうですね。ブロックチェーンの世界には、ファットプロトコル(プロトコルに価値が集まる現象)という考え方があります。

 これまでのWeb 2.0では、プロトコルについてはビジネス上で評価されず、代わりにそれらを利用したプラットフォームの収益性が高かった。FacebookやAmazonが代表的な例です。流れるデータに価値を持たせることができるWeb3では、その関係が逆転していきます。この時代の流れは意識していました。

 もう一つ感じていたのは、Web 2.0時代における日本の敗北です。世界の時価総額ランキングで上位を占めているのは、GAFAをはじめとするプラットフォーム企業ですよね。そこに日本企業が入り込めていない現状は、日本がプラットフォーマーとして敗北していることを意味していると思うんです。

 世界の価値観がWeb3へとシフトしていこうとする中で、プラットフォームを取りに行かないと「Web 2.0での敗北を繰り返すことになるのではないか」という危機感がありました。

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