米国サンフランシスコ在住の連続起業家(シリアルアントレプレナー)として知られる小林清剛氏は、先端のWeb3(3.0)サービスの開発に取り組んでいる。モバイル広告で一時代を築いた経営者の視点で、「10年に1度の変革」と沸き立つWeb3の現状をどう読んでいるのか。IT批評家の尾原和啓氏が聞いた。
働く人が投資家になり、ユーザーになる
尾原和啓氏(以下、尾原) お話を聞いていると、Web3における会社やサービスのつくり方が根底から変わってきたことが分かります。「日本人から見て、ここ気づかないよね」「ここを知っていれば波に乗っかれるよ」ということがあれば、ぜひ教えていただきたいです。
小林清剛氏(以下、小林氏) そうですね。一番大きな変化は、仕事の報酬も現金ではなく、トークン(暗号資産/仮想通貨)でもらう人が増えてきていることです。新型コロナウイルス感染症の影響によってリモートの働き方が広がり、世界中の人々がオンラインで仕事ができるようになってきました。そうした中で、世界中のDAO(自律分散型組織)に貢献しようという人が増えています。トークンというのは株式みたいなものなので、報酬として得ることで、同時にそのプロダクトに対するオーナーにもなります。ユーザーもコントリビューター(貢献者)として関与すれば、トークンを獲得できます。
尾原 そうですよね。これまでは経営者や開発者といった企業側と、ユーザーの立場がバラバラでした。Web3の面白いところは、それぞれが密接に絡み合っているところです。ユーザーでありながらも、コントリビューターとしてレビューを書いたり説明を書いたり、いろんな形の貢献の仕方がある。
もっと言うと、コントリビュートをする中で自然にトークンが集まってくる。投資家という立場も地続きになっている。日本だと、Web3について投機の側面がフィーチャーされすぎているところがありますが、そうではなく連続性の中にある。このことを意識すると、参加する人々は新しい世界をつくっている楽しさや、生きがいを感じるようになる。
小林 Web3に関与しようとするVC(ベンチャーキャピタル)も、ものすごい勢いで増えています。投資という面でも大きく変化し始めていることを感じます。
Web3では、関係構築が中長期的に
尾原 「これからのビジネスがどう変わっていくか」という話ですが、Web 2(2.0)の時代は、一部を除き、ネット広告がネットビジネスの収益源のメインでした。それがWeb3の時代になってどう変化していくでしょうか。
小林 やはりロイヤルティーの高いユーザーや顧客に対してどう中長期的に付き合っていくかというのが、すごく大事です。そのためにトークノミクス(トークンエコノミー)をどう設計するかがポイントです。「どういう風にロイヤルティーの高いユーザーを掘り起こして、コントリビュート(コミュニティーへの貢献)をしてもらったときに、どうトークンを発行して、一緒に育っていくか」という仕組みづくりです。既存ユーザーが新しいお客さんを連れて来てくれたときにうまくインセンティブを設定するなど、上手に活躍してもらうという視点が重要です。
尾原 おっしゃる通りですね。Web 2時代の反省の中に一つあるのは、「広告」によるマネタイズが楽で、他のマネタイズの仕方、特にロイヤルティーの高いお客さんと接点を持ち続けるところがおろそかになりがちだったところです。
どうしても「広告効果が出やすい人を選別しよう」となって消費者のデータを吸い上げたくなる重力が発生し、「お前は50代だから、そろそろ体の衰えを気にしているな」などと広告を送る。これによりプライバシーの問題も広がってきたわけです。
これまでの習慣で、新規獲得をすることにどうしても目が行きがちなんですけど、その思考をがらりと変えて、ロイヤルティーの高いユーザーにコントリビューターあるいは投資家として中長期のお付き合いを検討することが大事になる。Web3を手掛けている方々は、そうした転換に向けて、どう磨き合っているのでしょうか?
小林 Web3の多くのプロダクトでは、ウォレットを接続して利用するため、従来のようにメールアドレスや電話番号などの情報を取得することが難しくなっています。また、ユーザーの余計な情報をとるプロダクトや行為に対しても厳しい見方がされています。余計な情報を取ったり、情報を売ったりするようなものがあれば、ネット上で問題になって、淘汰されていくはずです。
「日本」のモバイルゲーム業界に好機が到来?
尾原 サンフランシスコやシリコンバレーでのWeb3のど真ん中にいる地平から見たときに「日本でこういうことをやればいいのにな」とか「こうやったら日本発のWeb3サービスができる」などポテンシャルを感じるみたいなところってありますか。
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