日本の若手起業家からリーダー的存在として慕われ、米国サンフランシスコでビジネス創出に取り組む小林清剛氏。2022年1月にはWeb3(3.0)時代の履歴書とも言うべき斬新なサービスを生みだしている。Web3時代にはどんな劇的な変化が起きるのか。IT批評家の尾原和啓氏がそのビジョンに迫る。
かつてスマートフォン広告の配信管理プラットフォームを手掛けるノボットを2009年に設立し、11年にKDDIグループに売却した小林清剛氏。その過程を通して、国内2位の規模となるスマホ向け広告ネットワークを構築したことで知られている。現在は「世界で通用するプロダクトをつくりたい」という思いから米国サンフランシスコに渡り、連続起業家として活躍している。
外食の口コミアプリを手掛けた後、22年1月には、開発者などがWeb3のコミュニティーでの仕事や実績を記録するためのサービス「Proved(プルーブド)」を立ち上げた。ネット界がWeb3へ変遷する「10年に1度の変革」の時代を迎えつつあるという中、小林氏は何を目指すのか。IT批評家の尾原和啓氏が尋ねた。
10年に1度のトレンドに乗る
尾原和啓氏(以下、尾原) 日本では、先見性を持ってノボットというスマホ広告のネットワークサービスの会社を立ち上げ、まさにスマホ市場の伸長期にKDDIグループに売却されました。改めて、その後どういうきっかけでサンフランシスコに拠点を移されたのでしょうか。
小林清剛氏(以下、小林) ノボットは09年に立ち上げて、10年夏から業績が伸び始め、11年にKDDIグループのmediba(東京・港)に売却しています。その後medibaは、アドテクノロジー企業のスケールアウトを子会社化しています。それを見届けて、13年にサンフランシスコに引っ越しました。日本のモバイル広告ネットワークとしては2番目の規模にまで伸びたノボットも、どうしても米グーグルには勝てなかった。次は世界で戦えるプロダクトをつくりたい。そのためのベストな場所だと思いました。
尾原 その頃、私はグーグルでモバイルの担当をしていたので、お互いライバルだったわけですね。その後、ベイエリアではどんな取り組みをしてきましたか?
小林 外食の写真やレビューをシェアできるChomp(チョンプ、アプリは現在も配信中だが運営会社は21年に終了)という事業をやってきました。この8年間で最大の学びは「トレンドって大事だな」ということです。トレンドって、多くの人が注目していますし、大変なエネルギー量があります。もちろんVC(ベンチャーキャピタル)も注目します。大きな流れに抗わず、それをつかむことが米国では大事だと学びました。
そうした点では、本当に10年に1度の大きな波だなと思っているのがWeb3(3.0)です。そこで21年10月にKnot(ノット)という会社を設立しました。
オーナーシップの所在に変化
尾原 なぜWeb3は「10年に1度の革新」と思われているのでしょうか? Kiyoさん自身はどこが一番「革新的だ」と思われますか。
小林 僕はWeb3を「ブロックチェーンに関わるさまざまな変化の集合体」と定義しています。トークン(ブロックチェーン技術を利用して発行された暗号資産/仮想通貨)やNFT(Non-Fungible Token、非代替性トークン)もそうですし、DeFi(ディーファイ、管理者のいない分散型金融のサービス)やDAO(ダオ、自律分散型組織。ブロックチェーンのトークンを報酬とし、運営や意思決定をステークホルダーに分散させる非中央集権的な組織やソリューション)もそうです。それをまとめて象徴してWeb3といわれています。
コアとなるのはそのトークンやNFTによるオーナーシップの変化だと思っています。例えばDAOだと、そこにいるメンバーたちが投資家でもあって、コントリビューター(貢献者。作家やプログラマー、クリエイターなど何らかの知識やスキルなどをプロジェクトに提供する人)でもある。そういう複数の立場でオーナーシップを持てるところが大きな変化です。
「一過性ではないか」と考えている人も多いのですが、完全に不可逆な変化だと思っています。それを象徴する1つのキーワードとして、僕たちは、「偽名経済※」という側面に着目をしてきました。
日本では匿名で書き込みをする掲示板のようなサービスも浸透しています。偽名と匿名の何が違うかというと、匿名はアイデンティティーを使い捨てします。偽名は連続性を持ちながら、ある名前を使い続けるという意味合いがあります。
尾原 なるほど……従来の中央集権的なサービスでは、サービスを提供する会社がオーナーシップを握っていました。例えばトランプ前米大統領はTwitterのIDやデータに対するオーナーシップを持てなかったので、永久凍結されると何もできなくなりました。
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