元MITの伊藤穰一氏にWeb3(Web 3.0)時代の可能性を聞くインタビュー後編。コミュニティーづくりが重要なNFT(Non-Fungible Token、非代替性トークン)ビジネスにおいて、日本はチャンスがあると伊藤氏は断言する。そのためにどんな壁を越える必要があるのか。IT評論家の尾原和啓氏が聞いた。
尾原和啓氏(以下、尾原) NFTの技術が急激に広がりつつあります。NFT関連のビジネスの可能性を、伊藤さんはどう見ていますか。
伊藤穰一氏(以下、伊藤) ビジネスの可能性は大いにありますが、それよりも社会に対するインパクトの方が大きいと思っています。
前提として、NFTには良くない部分もたくさんあるんです。詐欺も起こるし、僕らもまだちゃんと理解できていない部分がありますし。ただ、ものすごく透明性が高いので、働き方やガバナンスを大きく変えていくでしょうね。
例えば、すでに実務的なDAO(分散型自律組織)ができています。DAOは特定のリーダーをつくらず、同じ志を持った人々が集まって運営される、トークン所有者のコミュニティーです。その組織の中で、仕事のマッチングが行われていたりするんですね。ルールや手数料といったことはメンバー全員で決めて、仕事をしたい人と、仕事を発注したい人をマッチングさせる。仕事の報酬はもちろんトークンで支払われます。
誰がどれだけトークンを持っているのかはメンバー全員が確認できますから、「投資家がトークンを大量に所有している組織はブラックだよね」といったふうに、組織のあり方についても全員でディスカッションして、いつでも提案や投票をして、改善していける。昨今議論されているコーポレートガバナンスが、すでに実践されているんです。
トークンは流動性が高く、通貨であり、株券であり、投票権です。それらがどのように動いたのかは誰の目にも分かる。そうなると、従来の資本と仕事のあり方が変わっていく可能性がありますよね。
尾原 会社そのものの形もそうですし、ベンチャーキャピタルを含めた投資の形も変わるでしょうね。さらに、組織をどのように統治していくかといった、民主主義もアップデートしていく力があります。
伊藤 僕が投資している会社の一つに、DAOをつくっている会社があるんです。何をしているのかというと、世界中に法人をつくって、各国の労働法や税法に沿ったDAOを構築している。つまり、DAOのインターフェースをサービス化したんです。
尾原 なるほど。国ごとにDAOをつくるとなると、各国のNFTに対する法規制に一つ一つ対応しなければいけないですが、その部分を代理で行ってくれるサービスがあれば、誰でも簡単にグローバルカンパニーがつくれるわけですね。でも実際、日本では規制上なかなか実現しづらいのではないでしょうか。
伊藤 そうですね。先日もあるアントレプレナーの方が、日本では法規制上難しいのでシンガポールで会社を興していました。
尾原 シンガポールは多いですね。あとはドバイやポルトガルのリスボン。人材は結構流出していますよね。
伊藤 そう、流出してるよね。だから、ちょっともったいないなと思っていて。今、内閣の中で一生懸命この辺りを勉強している人たちがいるので、彼らがどのぐらいNFTをプッシュできるかだと思うんですよね。
あとは、言語の壁も大きいですね。NFTやWeb3は変化のスピードが速いので、新しい情報がたくさんあるんです。ただし、そのほとんどが英語です。僕が世間より少し早いと言われるのは、単純に英語でニュースを読んでいるから、というのが大きいと思うんですよ。
尾原 いや、そこはやっぱり伊藤さんの時代を読み解く力だとは思いますけど(笑)。情報を得るスピードという点では、言語の壁は確かにありますよね。ただ、若い人たちはドイツのディープエルによる翻訳ツール「DeepL」などを使って最新の論文を読んだりしていますし、言語の習得自体も早くなってきているように感じます。
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