NFT(Non-Fungible Token、非代替性トークン)やメタバースと共に注目される「Web3(3.0)」。ブロックチェーンを基盤としたこの新たな潮流は、社会やビジネスをどう一変させるのか。インターネット黎明(れいめい)期からテクノロジーの未来を見つめ続けてきたデジタルガレージの共同創業者・取締役の伊藤穰一氏にIT評論家の尾原和啓氏が聞いた。
世界初のWebサイトが誕生してからおよそ30年。インターネットはコミュニケーションのあり方から決済の手段まで、あらゆる社会の仕組みをアップデートしてきた。米マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボの元所長であり、デジタルガレージ 共同創業者・取締役の伊藤穰一氏は、その変革を常に最前線で向かい合ってきた一人だ。
1990年代からデジタル通貨の可能性を提唱し、MITメディアラボでは専門分野の壁を越えるアンチディシプリナリー(脱専門性)の研究に注力。およそ14年ぶりに帰国した現在は、デジタル庁の「デジタル社会構想会議」メンバーを務めるほか、2021年11月に千葉工業大学の変革センター長に就任するなど、精力的に技術の最前線を追う取り組みを続けている。
ネットの黎明期から暗号資産(仮想通貨)の広がりを予見していた伊藤氏の目には、ブロックチェーン技術を基とする分散型インターネット「Web3(3.0)」による変革がどう見えているのか。
尾原和啓氏(以下、尾原) 伊藤さんは1994年に『インターネット7日間の旅』(武邑光裕氏との共著。当時最先端だったインターネットの世界を紹介した)を発表された頃から、ずっと未来の目線で世界を見ていらっしゃいますよね。暗号資産の広がりなど、デジタルがリアルなビジネスを上書きし始めた昨今、ようやく時代が伊藤さんの見ていた世界に追いついてきた、という印象ではないでしょうか。
伊藤穰一氏(以下、伊藤) そうですね。よく「ちょっと早い」とは言われるんですが、着目するのが早すぎることもあって。96年に日本銀行出身の中村隆夫さんと『デジタル・キャッシュ―「eコマース」時代の新・貨幣論』(ダイヤモンド社)という本を書いて「デジタル通貨がくるぞ!」って盛り上がったんだけど、ちょっと早すぎましたね。(笑)
尾原 それは確かに早すぎましたね(笑)。MITで最先端の研究をけん引され、久しぶりに日本に戻られた伊藤さんの目には、今、どのような課題や潮流が見えていますか?
伊藤 新しい技術ができてから、その技術によって社会がアップデートされるまでには、かなりのディレイ(遅れ)があるんですよね。技術の誕生と、それによって社会が変革するタイミングって、実はずれていて。社会が変わっていくときには、すごく大きな、ゆったりとした動きがあります。
「会計」の歴史を振り返ってみましょう。会計の概念は、メソポタミア文明の頃、粘土板に数を記録することから始まりました。資産を管理できるようになったことで、都市国家が発展していったわけです。次の改革は、複式簿記の誕生ですね。取引の原因と結果を記録することで、お金の貸し借りができるようになった。投資や貸し付け、それらを行う組織のシステムが誕生しました。
ブロックチェーンやインターネットは、会計でいうところの「粘土板」や「複式簿記」の誕生にあたるイノベーションです。今はまだ、従来の銀行のあり方やお金の管理方法をデジタルで活性化させている段階。考え方は変わっていません。だけど、根本的にすべてが変わるような、大きな変化がこれから訪れると思うんです。その大きなトレンドには興味がありますね。
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