講談社がマンガだけにとどまらず、ゲームなど幅広いジャンルでクリエイターを支援する「クリエイターズラボ」を2021年6月に始動した。マンガ編集のプロ集団がなぜゲームも手掛けるのか。「マンガとゲーム作りには共通点がある」と話す講談社の鈴木綾一氏に、IT評論家の尾原和啓氏が聞いた。
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尾原和啓氏(以下、尾原) 今や、雑誌や書籍をデジタル化するどころか、サイマル化(紙版とデジタル版を同日発売)も当たり前になりました。
鈴木綾一氏(以下、鈴木) はい、コミックの完全サイマル化を講談社が宣言したのは2015年です。僕が子供の頃は、「マンガ雑誌は発売日に読まなきゃいけない、そうじゃないと仲間から取り残されてしまう」という焦りがあったのですが、デジタルが当たり前の時代では、「今買わなきゃ、今読まなきゃ」という危機感のようなものがなくなってきています。読者にとっての時間軸が消失してきていると感じます。
一方で、デジタル版が当たり前になったことで、過去の作品がまた売れるようになりました。すると、完結した名作と呼ばれる野球マンガと、新人さんの1巻しか出ていない野球マンガが同時に比べられるわけです。新人さんにとって厳しいのは、過去作と戦わなければならないこと。逆に、追い風になるものとしては、「将来の過去作」になるためにがんばればよいという流れができたことでしょうか。
尾原 短期間で売れるというより、長い時間軸において愛される作品になることを目指す戦い方もできる、と。
鈴木 そうです。紙媒体しかない時代では、連載を継続できるようにするため、読者アンケートの結果で人気を維持しなければなりませんでした。そうした状況とは違い、「ちゃんとまとまった名作を作りましょう。そうすれば、10年後、20年後も読まれます」というようになってきています。
尾原 何十巻も続く長期連載作品でなくても、10年、20年と読まれる作品になり得るというゲームチェンジがあるのは、すごいことですね。
鈴木 小説で例えると、夏目漱石の作品は現代でも広く読まれていますよね。今売れることを追求するのなら流行に合わせればいいのかもしれませんが、長く残したいのならば、時代を超える普遍性が不可欠。そうした戦略が重要だと思います。
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