「これからの日本経済を支える、次の柱は『おいしい日本食』」と力説するのは、カフェ・カンパニー(東京・渋谷)の楠本修二郎社長だ。ポストコロナを見据えた日本の立ち位置と可能性を分析した上で「おいしい経済」という未来ビジョンを描いた。「おいしい経済」でこれからの日本をデザインする思いと、実際のアクションを聞いた。

楠本修二郎氏(写真提供/カフェ・カンパニー)
楠本修二郎氏(写真提供/カフェ・カンパニー)

 日本の食文化は、世界に尊敬されている。その理由は、味がおいしいだけではなく、健康的で環境にも配慮されているからだ。日本の国土に占める森林面積は約66%で、先進国の中で有数の森林大国であり、リアス式海岸を含めた海岸線の長さは世界6位と海洋資源に恵まれている。また、四季の変化があり、植物にも多様性がある。さらに、火山活動が活発な地盤でバラエティー豊かな地形が広がる。

 このような自然環境で、豊富な食材が生まれた。そして、素材の味を最大限に引き出す和食の技法により、日本ならではの食文化が形成されてきた。日本人が比較的長い平均寿命であるのは、日本の食に多く含まれる海藻、緑黄色野菜、魚介類、発酵食品、緑茶などを摂取し続けることで、病気の罹患(りかん)リスクが低くなっていることが要因の一つにありそうだ。

 また、日本は『ミシュランガイド』の星を最も多く保有する国である。特に東京は星の総数でも、三つ星の数でも、ミシュランの本家であるパリを大きく上回っている。我々は「世界一おいしい国」に生きているのだ。

 その証拠に、日本政策投資銀行と日本交通公社が共同で行った「DBJ・JTBF アジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査」(2021年10月調査)など、「コロナ禍が収束した後に行きたい国」ランキングでは、日本が軒並みトップにランクインしている。その目的の項目では、なんと約8割が「食事がおいしいから」と答えているという。

 こうした背景を鑑みて、01年にカフェ・カンパニーを創立し、「WIRED CAFE」を中心として国内外に80店舗以上を展開している楠本修二郎社長は、「日本が再び世界のイニシアチブを握る武器となるものは『食』である」と断言する。21年12月に『おいしい経済 -世界の転換期 2050年への新・日本型ビジョン-』(ワニブックス)を出版した楠本氏が考える、食を軸とした日本再生の道筋とは。

『おいしい経済 -世界の転換期 2050年への新・日本型ビジョン-』
『おいしい経済 -世界の転換期 2050年への新・日本型ビジョン-』

世界で巻き起こるフードテック革命、日本の立ち位置は?

――日本の食産業の課題について、どう見ているか。

楠本修二郎氏(以下、楠本) まず、言うまでもなく担い手が不足していて平均収入も低い、実態は深刻だ。もう一つは構造的なことだ。日本の食産業は、今までは人口が増えることを前提として農業から物流、小売り、外食に至るまで、いい意味で縦割りの仕組みとサプライチェーンができてきた。それによって、日本の食産業は効率的で高品質な“おいしい社会”をつくり上げてきた。

 しかし、国内の人口減少や高齢化による担い手の不足と、グローバルの潮流に即した在り方を考えなければならないときにきている。今までの縦割りの業界を横軸でつないで、それぞれの強みを持った事業者による連携が必要だ。

――「おいしい経済」とは具体的にどんな提案か。

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