和食に特化した外国人向け料理教室など、食を通して日本文化を海外に伝える事業を手掛ける、わしょクック(相模原市)。同社を率いるのは、クラシエや日本ロレアルなどでマーケターとして活躍してきた富永紀子社長だ。

わしょクックの富永紀子氏(写真中央)
わしょクックの富永紀子氏(写真中央)

 2014年、富永紀子氏は、週末に相模原市の自宅で外国人向けの料理教室を始めた。日本の家庭料理や郷土料理を英語で紹介することで、外国の方々に和食のおいしさや日本文化を知ってもらいたい、訪日外国人にとっては日本滞在がより思い出深いものとなるといった思いからだ。

 この小さな料理教室は、インバウンドの拡大を背景に、利用者がどんどん増えていった。そして16年、富永氏は勤務していた会社を辞め、わしょクックを設立した。わしょクックとは、「和食」と「クック(Cook)」を掛け合わせた造語だ。

 富永氏は、自ら外国人に料理を教えるだけではなく、日本の和食・家庭料理を教えられる認定講師の育成事業も立ち上げた。現在、国内と海外に認定講師が運営するフランチャイズ校が100以上あり、年間1000人以上の外国人が料理教室に参加しているという。

 新型コロナウイルス禍で料理教室事業は一時大きな影響を受けたが、富永氏はオンライン教室をスタートすることで立て直した。2020年10月から、世界中の料理家から郷土料理を学べるオンラインサイト「たびクック」を始めたのだ。

 外国人向けの「日本を料理で旅する」企画や、日本人向けには「世界を料理で旅する」企画を実施し、自宅にいながらまるで世界中を旅しているように料理を体験できる。講師は全員英語、日本語の対応が可能だ。英語が苦手な人でも、日本語で体験できる。

オンライン料理教室の様子(左上が富永氏)
オンライン料理教室の様子(左上が富永氏)

 わしょクックでは、料理だけではなく、文化の要素も加えて海外の参加者へ伝えている。農林水産省は、国内の食とアート、歴史などの異分野を組み合わせた体験事例を全国各地から募集し、表彰する「食かけるプライズ」を実施している。その中で、わしょクックの「オンラインで世界と繋(つな)がる食×アニメ×弁当」が21年の「食かける賞」を獲得した。ご飯やおかずを使って漫画やアニメのキャラクターの形を描いた「キャラ弁」を、アニメ先進国である日本独自の文化として発信していることが評価された形だ。

 また、22年の年明け、富永氏は米国大使館から感謝状を贈られた。21年の年末に行ったおせち料理レッスンを通して和食文化を伝承したことが評価されたとのことだ。

 わしょクックは主に富永氏と元会社員の夫の2人で運営と管理をしている。なぜ、もともとのマーケターの仕事を辞め、外国人向けの料理教室を始めたのか。

海外で求められるのは「家庭料理のレシピ」という気づき

 富永氏夫婦は、07年に海外旅行でニュージーランドの海辺の民宿に泊まった。その民宿を経営する一家が目の前の海で捕った海産物で、シンプルだがおいしい家庭料理を作ってくれた。今まで色々な国に足を運んできたが、海外で「家庭料理」を味わった体験はなかった。その家族との会話もとても温かく、そして周りの自然の風景にも引かれ、「こんな所に住みたい」「こんな暮らし方をしたい」と思ったという。

 日本への帰国後、ニュージーランド移住に向けて、日本の家庭料理を海外に届けられないかと考えた。そこで、まずは会社員を続けながら、試しに週末を使って自宅で外国人向けの料理教室を開くことにした。

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