「食の進化」を通して人と社会の変化を追う連載の第6回。今回は、和食チェーンのがんこフードサービス(大阪市)を取り上げる。2020年10月、同社は配膳ロボットを活用したおもてなしを提供する「お屋敷」業態で、第3回日本サービス大賞の経済産業大臣賞を受賞。テクノロジー活用でサービス品質と生産性の向上という“二兎(と)”を追う取り組みだ。成功の鍵は、現場を巻き込むことにあった。

がんこフードサービスが展開する懐石料理店「お屋敷・高瀬川二条苑」。配膳ロボットを活用した飲食DXの舞台となり、大きな成果を上げている
がんこフードサービスが展開する懐石料理店「お屋敷・高瀬川二条苑」。配膳ロボットを活用した飲食DXの舞台となり、大きな成果を上げている

 がんこフードサービスは、回転すしをはじめとして居酒屋から歴史的建築物を利用した「お屋敷」業態まで、大阪府を中心とした近畿地方、東京都、神奈川県にグループ全体で90店舗以上を展開している和食チェーンだ。

 全国9店舗を構えるお屋敷シリーズは、歴史的価値のある伝統家屋で日本文化の体験とともに懐石料理を味わえる店舗。例えば、京都市の中心部、市役所から少し離れたところにある「お屋敷・高瀬川二条苑」は、古い庭園を改修したもの。同店では、京都のシンボルの一つでもある鴨川を望む川床、そして庭園の新緑、紅葉など様々な京の風景を楽しめる。日本舞踊や和菓子作り、舞妓(まいこ)体験などのイベントも行われ、非日常の空間を演出している。親しみやすい同社の回転すし店などとは全く異なる雰囲気だ。

歴史を感じさせる「お屋敷・高瀬川二条苑」
歴史を感じさせる「お屋敷・高瀬川二条苑」
高瀬川二条苑で提供されている揚げたて天ぷら付きの牛すきランチ
高瀬川二条苑で提供されている揚げたて天ぷら付きの牛すきランチ

 実は、お屋敷シリーズの料理の提供価格はすごくリーズナブルだ。お屋敷・高瀬川二条苑で提供される揚げたて天ぷら付きの牛すきランチは1700円台(税込み)、宴会のコース料理の値段も一般のレストランとそれほど変わらない価格帯となっている。

 その秘密は、高級料亭のたたずまいとは趣を異にする、ロボットを活用していることにある。数年前からロボットを導入しており、生産性を向上することで高付加価値なロケーションでもリーズナブルな料理を提供できているのだ。2020年に受賞した日本サービス大賞経済産業大臣賞の評価ポイントは次のようなものだ。

高瀬川二条苑で活用されている配膳ロボット
高瀬川二条苑で活用されている配膳ロボット
サービス名:おもてなし×サービス工学による懐石料理サービス「屋敷シリーズ」
 歴史的価値のある伝統家屋・日本庭園の中で懐石料理を提供する「おもてなし」を、バックヤードにおける徹底的な工学アプローチ(従業員のサービス導線解析による最適化、搬送サービスロボットの活用など)による効率化を行いながら提供することで、高い労働生産性を実現している。

 この「屋敷シリーズ」の営業利益率は9~10%程度と高水準。従業員は、本来注力すべきサービス価値創出に集中し、労働生産性は5年で11.7%向上し、労働時間は10年で34%減、離職率は10年で6.6%減。

 ここで評価されたように、飲食店のオペレーション自動化やIT化が注目されていない10数年前から、同社は地道にサービス工学による現場の生産性向上に取り組んできた。サービス工学とは、サービスに関わる「人」をモデル化し、 顧客視点でサービスの生産性向上を実現するテクノロジーのことだ。観測(センシング)→分析(モデリング)→設計(シミュレーション)→適用といったような開発プロセスで行われる。

ロボットによる完全自動化は目指さない?

 がんこフードサービスは、外食産業においていち早くサービス工学の可能性を見いだした。日本で先行的な研究を行っている産業技術総合研究所(産総研)をはじめ、多くの専門機関と共同研究を進めてきた。それを仕掛けたのが、がんこフードサービス代表取締役副社長の新村猛氏。新村氏は、現在、産総研人間拡張研究センター客員研究員や立命館大学食マネジメント学部客員教授など、複数の肩書を持つ異色の経営者であり、博士(工学)号を持つ研究者だ。がんこフードサービスとのつながりは、なんと大学生のときに同社でアルバイトをしたことから始まったという。

オンラインで取材を受けた、がんこフードサービス代表取締役副社長の新村猛氏
オンラインで取材を受けた、がんこフードサービス代表取締役副社長の新村猛氏

 新村氏の経営学修士課程の研究テーマは、伝統ビジネスにおける労働生産性の向上だった。それをきっかけにして、産総研がサービス工学研究センターを立ち上げるときに新村氏も参加した。それからサービス工学でいかに飲食サービスの生産性を向上するか、長年取り組んできた。

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