「食の進化」を通して、人と社会の変化を追う連載の第5回。今回は、2021年3月に大阪市東淀川区でオープンした循環型地域食堂「ばんざい東あわじ」を取り上げる。地域住民が家庭で余った食材を持ち寄り、1グラム1円という“激安おばんざい(総菜)”を提供する異色の食堂だ。循環型地域食堂はいかにして立ち上がったのか。

循環型地域食堂「ばんざい東あわじ」では、余った総菜を使って無料弁当も提供する
循環型地域食堂「ばんざい東あわじ」では、余った総菜を使って無料弁当も提供する

 異色の食堂「ばんざい東あわじ」を運営するのは、ハウスクリーニングや学習塾、整骨院などを手掛けるSnailtrack(大阪市)だ。本社を構えるのは、1970年代にできた古いショッピング街「ショッピングタウンエバーレ」。上階にあるマンションには1400世帯が暮らしており、一人暮らしのシニアや共働き世帯が多い。

 2021年1月、このコミュニティーに激震が走った。それまで住民の生活を支えてきたテナントのスーパーマーケットが、近隣に大手スーパーが出店してきたことや、買い物手段の多様化を背景に閉店したのだ。シニアの住人にとって、これまでは階下のスーパーに総菜を買いに行くことがちょっとした運動になり、地域住民と顔を合わせて少し話す場所でもあった。それが失われるのは、かなりの痛手だ。また、手押し車やつえを突いて歩くシニアは、少し離れた大手スーパーへ気軽には行きにくい。

 こうした課題を解決するために立ち上がったのが、Snailtrackだった。同社は21年3月に循環型地域食堂のばんざい東あわじをオープン。シニアを中心とした“買い物難民”を救うだけではなく、地域の食品ロスの低減と生活困窮者への支援を同時に実現するのが目的だ。

 ばんざい東あわじでは地域の人たちが買い過ぎた食材や消費期限が近い食材を持ち寄り、足りない分は地域の農家や商店で購入する。そうして集めた食材を使って“おばんざい”を調理し、1グラム1円(最大500円)という激安の量り売りで提供する。そして、その日に残った分は無料の弁当として食堂前に設置している冷蔵庫で保管し、地域住民が自由に持ち出せるようにしている。

ばんざい東あわじの店内。常時7~10種類の総菜が並ぶ
ばんざい東あわじの店内。常時7~10種類の総菜が並ぶ
食堂で使われる食材は寄付を受けたものが中心(写真左)。好みの総菜を容器に入れ、1グラム1円で量り売り(写真右)
食堂で使われる食材は寄付を受けたものが中心(写真左)。好みの総菜を容器に入れ、1グラム1円で量り売り(写真右)

発想の原点「親切な冷蔵庫」とは?

 こうしたユニークな仕組みは、実は米国のある取り組みからヒントを得た。Snailtrack代表の本川誠氏は、「住民の方々との触れ合いを増やしたい、食品ロスを低減したい、健康的な食事を激安で提供したい。これをどう実現するか、様々なことを考え抜いた。そんなときに見つけたのが、米国で始まった『親切な冷蔵庫』だった」と話す。

 ニューヨークでは、コロナ禍で職を失い、生活に困窮する人が多数発生している。そんな人の中には、他人に助けを求めることに負い目を感じる人もいる。こうした人々の気持ちを考慮して、地域住民が地元の飲食店などと協力し、必要な人が無料で食べ物を持ち帰りできる仕組みが立ち上がっている。これが、「親切な冷蔵庫(friendly fridges)」運動だ。

 この運動に参加する人は、自前で冷蔵庫を用意し、冷蔵庫の設置場所として使うことと、電源につなぐ許可を地元の店から得る。その冷蔵庫に地域住民から集まった食べ物をボランティアが補充し、清掃も行う。冷蔵庫にはアーティストたちがボランティアでカラフルな絵を描いている。

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