パッケージデザインはマーケティング活動における重要な要素だ。パッケージデザインの制作・評価に携わって20年の著者が、経営者やマーケター、ブランド担当者が知っておくべきパッケージデザインの鉄則をまとめた新刊『売れるパッケージデザイン 150の鉄則』(小川 亮著、日経BP)から、特に重要なポイントを抽出した連載の第6回。
目標に向かってコツコツ努力する
心理学に丁度可知差異という考え方があります。これは「刺激の識別が可能な最小値のこと」と定義されていますが、言い換えれば、「分かるか分からないかくらいの違い」といえます。ロングセラーブランドのパッケージデザインに見られる「定期的に少しずつ変えていく」というパターンでは、この丁度可知差異が採用されています。
アサヒビールの「アサヒスーパードライ」や日清食品の「チキンラーメン」、明治の「明治ブルガリアヨーグルト」などは、長い間、少しずつデザインを変更することで、新鮮なブランドとしてそのポジションを維持しています。一度のデザインリニューアルでは、デザインが変わったか変わらなかったか分からない程度、まさに丁度可知差異の範囲でのデザイン変更ですが、10年前、20年前のデザインと比べて見ると、明らかにその時代に合った形に進化していることが分かります。
丁度可知差異の範囲でのリニューアルは既存顧客を失うことなく、デザイン資産を構築していくために有効な手段ですが、大切なことは「長期的なゴール」をチームで共有していることです。明治ブルガリアヨーグルトは発売以来変わらない提供価値(自然の中から見いだされた乳酸菌由来の健康効果とおいしさ)を貫いています。「長く愛してほしい」という思いからデザイン上のアイデンティティー(ロゴ、色、グラデーション)も変えることなく継承し続けています。発売して50年近くたち、多くの競合商品が登場する中でも古びず、埋没することなく、顧客に選び続けてもらうために、商品の中身とパッケージデザインの両方を常に磨き続け、デザインのアイデンティティーを変えずにその印象をより強めることを実現しています。本書では心理学の概念である丁度可知差異という言葉を引用していますが、明治では「より象徴的に進化させ続ける」ことを目標にしています。
こういった高い目標を、ブランド・デザインを担当するチームが共有することは、とても大切です。「分かるか分からないかのレベルで少しずつ変える」こと自体は手段です。目標が共有されないまま少しずつ変えたデザインを大量につくり、リニューアルを繰り返していくと、最終的には目標が分からなくなり、少しずつ変えるという作業自体が目的化してしまいます。