「おれの魂はスサノオノミコトであり、あらぶる『闘う魂』は死ぬまで変わることはない」。自分でそう語るほど強気でとがった印象が強い角川春樹。メディア界の風雲児が最後に手掛けた映画は意外にも優しさが詰まった作品だった。
父が敷いたレールで歩み出した社会人人生
「あなたが、こういう映画を創るとは思わなかったとよく言われるんですよ」
角川春樹はしみじみとした調子で切り出した。
“こういう映画”とは、彼が製作、監督した最新作『みをつくし料理帖』だ。この映画は、角川が社長を務める角川春樹事務所が発行する、髙田郁(たかだ・かおる)の同名小説を原作としている。
水害で親を失った主人公の澪は、天性の味覚で周囲の人々に支えられながら料理人として成長していく。澪の幼なじみでもある幻の花魁(おいらん)、野江との女性の友情を中心に、市井の人々の機微を丁寧に描いた優しい作品に仕上がっている。
角川春樹といえば、強気でとがった部分を取り上げられがちだ。そう見られることを彼自身が望み、楽しんでいた面もある。
彼の著書『わが闘争』(角川春樹事務所)をめくると――。
〈おれの魂はスサノオノミコトであり、あらぶる「闘う魂」は死ぬまで変わることはない〉
〈人間は弱いから、正義だとか倫理とか大義だとか、さまざまな観念をつくり出して、それにしがみつき、支えにしているにすぎない。支えがいっさいなくなってしまい、何をしても自由だとなると、その自由に耐えられないのだ。(中略)「不良」に生きるとは、そうした縛りからいっさい自由になることだ。だから財産はすべておれにとってのゲームのコインにすぎない〉
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