
社名変更から10年弱で日本有数のクレジットカード会社に成長した楽天カード(東京・港)。楽天経済圏の存在やポイントの効用ばかりが強調されがちだが、その真の強みは会員とのコミュニケーション手段である「楽天カードアプリ」と会員専用オンラインサービス「楽天e-NAVI」にある。競合他社の志向を先取りする形でキャッシュレス化を推し進める楽天カードの戦略を追った。
会員数2076万人(2020年9月末時点)、年間ショッピング取扱高約9兆5000億円(2019年12月期、前年同期比27.4%増)、日本のショッピング取扱高に占める市場シェア18.6%(20年8月末時点*1)──。11年8月、楽天KC(当時)が手がけていた「楽天カード」事業を楽天クレジット(当時)が吸収して楽天カードに社名変更してから10年弱で、楽天カードは日本有数のクレジットカード会社に成長した。
しかも、新型コロナウイルス感染症の拡大という“大事件”がありながら、この成長の勢いに衰えが見られない。楽天カード分を除くクレジットカード市場全体のショッピング取扱高は、20年3月に前年同期比でマイナスに落ち込み、それ以降もマイナスが続く。これに対し、楽天カードのショッピング取扱高は、「コロナ禍でもマイナスに落ち込むことなくわずかながらも成長を続け、20年6月の段階で、コロナ禍が起きる以前の年平均成長率23%まで回復している」(楽天カード上級執行役員マーケティング本部副本部長の小山幸宏氏)のだ。
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楽天グループの決済基盤という出自が奏功
他のクレジットカード会社の多くは、QRコード決済事業者の勢いに押されていたこの2年を「雌伏の時」と捉え、20年になってようやくキャッシュレスの本格的な普及に向けて逆襲に転じた。しかし、楽天カードはそれら競合他社と一線を画し、QRコード決済「楽天ペイ」、電子マネー「楽天Edy」、それに「楽天ポイント」などグループの他のキャッシュレス決済手段と連携を強めながら、早い段階からキャッシュレス推進の波を見越し、着々と普及戦略を推し進めてきた。
例えば、楽天ペイや楽天Edyを楽天カードとひも付ければ、効率的に楽天ポイントがたまる仕組みを構築し、ユーザーに対して楽天カードの入会・利用を促した。また、楽天ペイと楽天Edy、楽天ポイントカード、それに個人間送金などを可能にする「楽天キャッシュ」の機能を統合した楽天ペイアプリをリリース。「電子マネーが適しているシーンでは楽天Edyなどで支払い、QRコード決済が適しているシーンでは楽天ペイで支払ってもらえばよい」(小山氏)というユーザーにとっての使い勝手の良さを実現した。
そうした動きができたのは、そもそも楽天カードが他の多くのクレジットカード会社と異なる出自であるところが大きい。
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