
流通系カード大手のクレディセゾンは2020年11月24日、新たな決済サービス「SAISON CARD Digital」を開始した。アプリ内に表示するデジタルカードの採用で発行にかかる時間を最短5分に短縮。ナンバーレスカードで既存のスキャン型決済端末にも対応する。狙いはスマホとの親和性向上と若年会員の獲得。いずれは“カードレス”も視野に入れる。
「ペイメント(支払い)市場が変化する中、かつてと同じ戦略ではカード会員の獲得、利用回数や金額の拡大はもう望めない」。クレディセゾンのペイメント事業部戦略企画部の荻原勇佑課長は、同社の現状をそう分析する。
この数年で消費者の購買行動やライフスタイル、決済手段は大きく変化した。中心にあるのはスマートフォンだ。商品の購入や各種サービスの利用とそれに伴う決済がスマホ一つで完結。コード決済の普及でリアル店舗でもスマホで買い物ができるようになった。
一方で、カード会員の高年齢化は大きな課題となっている。同社のカード会員に占める割合は30代が14%、20代以下が9%(2019年実績)。百貨店などの小売りや流通の店舗を中心に獲得してきた会員が年齢を重ね、50代以上が5割を超えた。
だが、結婚、育児など将来的に利用額の増加が見込まれる若年層は、顧客基盤として欠かせない存在だ。「かつては年齢や性別を問わず、全方位に会員獲得策を展開していたが、今はターゲットを絞ってサービスを強化する戦略に転換している。若年層は、(会員の57%を占める)女性会員、利用額の大きい富裕層と並ぶ注力ポイント」と荻原氏は説明する。
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最短5分でデジタルカードを発行
そこでクレディセゾンが注力するのが、20年11月24日に開始したスマホ基盤の新たな決済サービス「SAISON CARD Digital」だ。同サービスは、クレジットカードの申し込みから発行までをスマホで完結。すぐに決済に使えるデジタルカードを同社のアプリ「セゾン Portal」上に最短5分で発行する。
荻原氏によると、「クレジットカードをあまり利用しない層には、申し込みに時間がかかる、紛失や不正利用などのリスクが怖い、使い過ぎないか心配といった不安や悩みを抱える人が多かった。これらの悩みを解消するためにSAISON CARD Digitalを開発した」という。
SAISON CARD Digitalの申し込みフローは次の通りだ。まず、スマホアプリやパソコンからクレジットカードの新規発行を申し込む。次に、金融機関のオンライン口座登録、もしくは顔写真と運転免許証などをスマホで撮影、照合するeKYC(electronic Know Your Customer)で本人確認を行う。審査と受け付けが完了すれば法定書面をオンラインで交付。スマホアプリ上にデジタルカードを表示する。
デジタルカードにはカード番号や有効期限、セキュリティーコードが記載されており、これらの情報を入力すれば、EC(電子商取引)での決済や電子マネーのチャージにすぐに使える。Apple PayやGoogle Payにカード番号をひも付けることで、実店舗での支払いも可能だ(Google Payには21年1月対応予定)。
カードスキャンが必要なリアル店舗での決済用には、従来サービス同様、プラスチックカードを後日郵送する。ただし、このカードにはカード番号や有効期限、セキュリティーコードを記載しない。「カード情報はアプリ上のデジタルカードで確認してもらえばいい」と荻原氏。紛失やカード情報の盗み見による不正利用のリスクを抑えることを優先した。
加えて、カードの利用内容を随時知らせるプッシュ通知や、スマホからカードの停止/24時間以内の再開、解除ができる機能も用意した。これらも不正利用や使い過ぎへの不安解消につなげる。
「多様化する決済手段と、早い、簡単、安心を求める声に応えた形。これまでクレディセゾンのカードを持っていなかった新規層の開拓をメインに、2枚目、3枚目のカードを追加する既存会員の獲得も狙いたい」と荻原氏は意欲を示す。
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