コロナ後の「営業DX」大潮流

住宅情報サイト「LIFULL HOME’S」を運営するLIFULLは、営業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する1社。特にこの1年でインサイドセールスを強化。営業活動の大半をオンライン商談に移行した。営業の効率化により、営業部員の半分を別の部署に配置転換したにもかかわらず、受注件数は2倍に伸びた。さらに2020年9月期は営業部門の退職がゼロという、副次的な効果にもつながった。だが、デジタルツールの定着には相応の苦労を要した。

不動産情報サイト「LIFULL HOME’S」を展開するLIFULLは、2019年10月にインサイドセールス部門を設置し、営業のオンラインシフトを強化
不動産情報サイト「LIFULL HOME’S」を展開するLIFULLは、2019年10月にインサイドセールス部門を設置し、営業のオンラインシフトを強化

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 HOME’S は大手住宅情報サイトの1つ。住宅情報を探すサイト訪問者を、不動産会社が提供する販売・賃貸物件に集客することで、対価を得る広告モデルだ。主な営業先は工務店や住宅メーカーとなる。

 LIFULLにおける営業の役割は大きく2つ。新規顧客の開拓と、既存顧客に他の物件も掲載してもらうことで収益を高めるアップセル・クロスセルだ。従来の新規営業は1日に数十件の電話をかけ、約束を取り付けて訪問し、既存営業は担当企業を巡回する、いずれも典型的な手法だった。

 ただ、1件当たりの出稿料金が数万円という、低単価の広告商品を手広く販売するLIFULLの事業モデルにおいて、こうしたハイタッチな営業手法は非効率な一面もあった。「広告主の課題を把握し、適切な広告商品の案内とその効果の試算を伝えるのが王道の営業トークだが、訪問しないとできないことはほとんどない」とLIFULL HOME’S事業本部アカウントマーケティング部の諏訪浩一部長は言う。既に集客効果を実感し、継続出稿している既存顧客なら、なおさらだろう。

 従来型営業が非効率だったのは、単純に訪問するという物理的な制約だけではない。諏訪氏が強く課題意識を感じたのは「営業のブラックボックス化」だ。従来型の営業は属人的になりがち。実際の営業の場でどのような商談が行われたのかは、当の本人しか分からない。受注できた案件はまだしも、失注理由は担当者の口頭説明をうのみにする他、分析する手だてがなかった。結果、「ノウハウが蓄積できず、営業担当者の育成にもつながらない」(諏訪氏)ことが属人化を加速させている要因だった。

営業の属人化を解消する2つの施策

 そこで、諏訪氏はこの課題解決に向けて、2つの対策を実施した。1つ目は役割の分担だ。19年10月にインサイドセールス部門を設置し、営業先の課題や悩みを聞き、商談を取り付けるまでを同部門の役割とした。最終的に商談をして、受注をするのが従来の訪問営業担当者となる。営業先との接点を複数にし、営業結果の報告を分散させるのが目的だ。営業活動を複数の視点で分析できるようにすることで、属人的な要素の排除を目指した。もっとも、1人で行っていた営業活動を2人に分けることで、多少効率性が低下する可能性もあった。

 それを補うためのもう1つの施策が、営業のオンライン化促進だ。AI(人工知能)を搭載し、会話の解析機能を持つIP電話「MiiTel」と、オンライン商談ツール「ベルフェイス」を営業組織全体に導入した。基本的には電話営業が中心のため、MiiTelを中心に使い、新しい商品の紹介といった資料を共有する必要がある場合はベルフェイスを組み合わせて使う。インサイドセールスでの活用は当然のことながら、狙いは訪問営業の削減にある。先述した通り、諏訪氏はネット広告の販売は必ずしも訪問する必要はないと考えていた。MiiTelやベルフェイスを活用すれば、オンラインで営業が完結する。訪問にかかる移動時間などが短縮できるため、効率的な営業活動が可能になる。

 さらに、導入したツールは音声を録音し、その中身を自動解析する機能を持つ。営業の中身が可視化できるため、客観的な視点で営業の課題発見ができるようになる。トップ営業担当の営業プロセスをデータで可視化し、メンバーで共有することで、組織全体の営業力の向上にもつながると考えた。

 しかし、言うは易く行うは難し。ツールを導入したからといって、いきなりデジタルシフトできるはずはなかった。例えば、電話営業にはMiiTelを使うように依頼しても、慣れないうちは普通の電話を使ってしまう。訪問営業を減らし、オンライン商談を使うように伝えても、やはり訪問営業をしてしまうといった具合だ。また、以前からSFA(営業支援システム)「Salesforce」を導入しており、受注した案件はすべてSalesforceで管理していたが、失注した情報が入力されていないことも課題として浮かび上がった。「失注した商談こそ、改善の余地が見つけられるはず」(諏訪氏)。

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