
従来の住宅販売はまず内見に来てもらうことが大前提。来場後に営業担当者が“口説き落とし“受注につなげる。しかし、新型コロナウイルス感染症拡大によって、その常識が覆された。こうした中、不動産販売を手掛ける野村不動産アーバンネットは「ウェビナー(Webとセミナーを掛け合わせた造語)」とインサイドセールスを組み合わせた新しい手法を開始。東京・渋谷の新築マンション「ヴィークコート代々木参宮橋」の販売で、成約率を従来の3倍に高める成果を上げた。
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野村不動産アーバンネットはマンションや一戸建てなどの住宅売買や不動産投資といった個人の不動産に関わる支援事業や、不動産情報サイト「ノムコム」を展開する。このうち、営業DX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組み始めているのは、住宅販売部門。主に新築マンションの販売をデジタルツールの活用で推進する。
同社の住宅販売の定石は、まず販売するマンションの商品サイトを制作する。ノムコムや他社の不動産情報サイト経由で商品サイトに集客し、モデルルームの来場申し込みにつなげる。来場後は営業担当者が購入を検討している住宅の条件やニーズなどを来場者から聞き出し、販売に結びつけるというもの。住宅のような高額商品は実物を見て購入するのが当たり前。だから、とにかく見込み客を来場させることに心血を注いできた。
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しかし、野村不動産アーバンネット住宅販売一部販売三課長の洞口友範氏はそうした手法に以前から疑問を抱いていた。「モデルルームに来場すると、しつこく営業されるのではないかという不安が消費者にある。また、住宅はこの数年で高騰しており、買える商品も限られるため、来場者数が減っていることに危機感を抱いていた」。事前にオンライン上でコミュニケーションをとることで不安を取り除き、同時にきちんと顧客のニーズを把握することで、来場後の成約率を高められるのではないか。そうした考えの下、オンライン商談の準備を進めていた。そこに偶然、新型コロナウイルス感染症拡大が重なった。
従来の手法で家が売れているうちは、新しい販売手法の導入は進みにくいもの。結果的に、コロナ禍はDXを推し進めるきっかけとなった。緊急事態宣言の発令時は、モデルルームへの来場を完全に停止。その間の営業はオンライン商談で実施した。状況が状況だけに、消費者サイドも思ったより自然とオンライン商談を受け入れてくれたという。とはいえ、百聞は一見にしかず。内見できない分、まさしく百聞に値する情報を提供するため、100ページにもわたる物件紹介資料を用意して臨んだ。オンライン商談の体験に関して、参加者にアンケートをとったところ、感触は良かった。洞口氏は手応えを感じた。
進み始めた営業DXが感染者の減少で逆戻りに
ところが、DXの道半ばにして、一時的に感染者が減少に転じる。すると何が起こったか。「モデルルームへの来場者が増え、営業担当者もオンライン商談なんて面倒なことをやるぐらいならと、来場者の対応を優先するようになった」(洞口氏)。以前の手法に逆戻りしてしまったのだ。来場を受け付け始めたことで、オンライン商談を利用する消費者も激減。せっかく導入した仕組みが無用の長物になる恐れがあった。また新型コロナウイルス騒動が完全に収束する保証はない。このままDXが進まなければ、再び感染者が拡大したときに同じことを繰り返しかねない。
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