パーソナルデータとデジタル技術を高度に活用してビジネスをダイナミックに再構築しようとするDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組む先進的な企業では、「プライバシーガバナンス」が不可欠な要素として認識され、その構築が進められつつある。本連載の第1回では、なぜ今、プライバシーガバナンスが求められているのかについて考えていく。
プライバシー保護なしではDXは進められない
「プライバシーガバナンス」という言葉を聞いたことがあるだろうか。「ガバナンス」と聞くと現場から離れたコーポレート部門の仕事のように聞こえるかもしれない。しかし、実際はそうではない。事業部門の従業員がDXを推進していくうえで、プライバシーガバナンスは必要不可欠な要素なのだ。国もガイドブック*1を策定して、プライバシーガバナンスの推進に着手している。
筆者はコンサルタントという立場から、企業からプライバシー保護に係る相談を受けるが、その中でも特に近年増えているのが、組織や企業の枠組みを超えたデータ利活用に関するものである。例えば、「事業部門ごとに保有し管理している顧客データを、事業部門横断的に利活用するため、プライベートDMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)を導入することにしたが、個人情報保護の観点から問題はないか」といったものや、「グループ企業横断でのデータ活用を推進している。利用規約やプライバシーポリシーを、改正個人情報保護法も踏まえて、どのように変更していけばよいか」といった相談などである。
顧客データをはじめとするパーソナルデータを取り扱う企業がDXを進めようとする場合、個人情報保護法の順守はもちろん、プライバシー保護の観点から十分な対策を講じておく必要がある。企業が相談を寄せてくる背景には、プライバシー保護が不十分な場合、顧客の反発を招き、悪くすると事態が炎上事件にまで発展しかねないという危機感がある。実際、「障害と考える法的規制は何か」と企業に尋ねると、個人情報に関わる法令・規制が第一に上がり、さらにその割合が年々高まっていることからも明らかである(図1)。
その一方で、DXを進めていくために、具体的にどのようにプライバシー対策を講じていけばよいのかについては、ノウハウが十分に蓄積されていない。一部の企業では手探りでプライバシー対策の検討が進められようとしているものの、多くの企業において従来の枠組みのままDXが進められている。自動車に例えると、エンジン性能の向上にばかり注力して、スピードを調節する仕組みが見落とされているようなもので、大変危険な状態と言える。
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