RaaS(Retail as a Service)を採り入れた次世代型の体験型小売店として大きな話題を呼んだb8ta(ベータ)。「日経クロストレンドFORUM 2020」の2020年11月17日の講演では、b8ta Japan(東京・千代田)の北川卓司カントリーマネージャーが登壇し、その具体的手法について述べた。
RaaS(Retail as a Service)を採り入れた次世代型の体験型小売店として大きな話題を呼んだb8taが、ついに日本上陸を果たした。11月17日の13時からはb8ta Japanのカントリーマネージャー、北川卓司氏が登壇。その具体的手法について述べた。
北川氏はまず「体験型店舗b8taとは何か?」という説明から話を始めた。b8taが2015年にオープンしたのはサンフランシスコ近郊のパロアルト。同エリアに集まるスタートアップ企業が生み出したガジェットやIoT関係の新商品、ベータテスト中の商品、D2Cブランドのコスメやファッションなど最先端の商品を体験できる店舗だった。
その後、全米に23店舗、19年にはドバイにも1店舗をオープン。20年8月にアジア初として、東京・新宿と有楽町に2店舗を同時オープンした。新宿店は新宿マルイ本館1階、有楽町店は晴海通り沿いの有楽町電気ビルヂングにあり、広さはそれぞれ40坪、80坪だ。
b8taが考えるRaaS、4つのポイント
b8taの世界共通のミッションは「Retail designed for “discovery” リテールを通じて人々に“新たな発見”をもたらす」。それに加え、北川氏は「Make invisible visible. 見えないものを可視化する」という日本オリジナルのビジョンを掲げている。
そのミッションを実現するため、同社はRaaSとして様々なソリューションを提供している。北川氏は「b8taが考えるRaaS」の定義を「ブランド・商品と来店客をつなぐ」「プラットフォームで手軽に出品」「来店客の“行動データ”」「販売を主目的にしない接客」という4つのポイントから解説した。
まずは1つめの「ブランド・商品と来店客をつなぐ」について。新規に立ち上がった企業が商品やサービスを提供しようとすると、現在はオンラインから始めるケースが大半だ。事業がある程度軌道に乗ると、新たな顧客にリーチするためオフラインに進出する。だが、このとき流通マージンや店舗構築の手間、時間といった障壁が立ちはだかる。
そこで、b8taでは同社が構えた店舗の一角をこれら企業にサブスクリプションサービスで提供する。しかも、b8taの店舗は新宿や有楽町といった繁華街、駅からも近い建物の1階と好立地。まだ日の目を見ていないブランドや商品を店舗に並べ、消費者に手に取ってもらう機会を創出するのが役目だ。
新たな商品を置く際は、まず店舗のマーチャンダイズ担当マネージャーが「その商品をどこに置けば来店者が店舗内を楽しく回遊できるか」を検討。出品者は商品の特徴やスタッフがアピールすべきポイント、価格などを同社のプラットフォームに入力する。その情報は、商品の脇に置かれたタッチパネルで来店者が参照できる。
この情報には、b8ta以外の店舗でセールを開催しているといったことも盛り込める。「店頭でどのような情報を提示するかを出品者が自由に決められる点もb8taの新しい部分」と北川氏は述べた。
2つ目のポイントである「プラットフォームで手軽に出品」は、同社が提供するプラットフォームに関するものだ。これを活用することで、出品社はオンライン広告を出稿するように手軽に出品準備ができる。店頭での出品状況の確認や在庫管理も可能だ。企画から出品、運用の開始まで店頭に足を運ぶ必要はなく、しかも約4週間で実現できる。
3つ目のポイントは「来店客の“行動データ”」だ。b8taの店舗では天井に設置したAIカメラで、来店者の性別やおおよその年齢層、人数といった属性から、商品が出品されている区画の前を通り過ぎた人数や5秒以上立ち止まり商品に興味を示した人数、商品のデモンストレーションを行った回数といった行動まで集計、マーケティングデータとして可視化する。他社が出品している同じカテゴリーの商品との比較やコンバージョンレートなども参照できる。
また、出品者が店頭のスタッフとチャットでコミュニケーションを取り、来店者に質問してほしいことや商品アピールに関するアドバイスを伝える機能もある。
4つめのポイントが「販売を主目的にしない接客」。これがまさにb8taの個性が際立つ部分だ。販売を主目的にしないからこそ得られる来店客からのフィードバックは、出品者が商品を改善する上でも非常に参考になる。
ただ、どれだけ有益なフィードバックが得られるかは店頭のスタッフに負うところも大きい。b8taでは店頭スタッフを「b8taテスター」と呼ぶ。このb8taテスターのトレーニングが「すごく難しい」と北川氏は話す。多くのスタッフは他店で販売員としてのキャリアを積んできた人たちで、そこでは販売数や販売額で評価されてきた。ところがb8taではそういった数字は意味を持たない。
北川氏が「弊社の宝」と表現するトレーニング用の資料はなんと400ページ。その内容はさすがに非公開とのことだが、同氏は実際のトレーニングの流れとその特徴を一部明かした。
それによると、b8taテスターは商品を出品するブランドから直接トレーニングを受ける。コロナ禍ではZoomなどを使ったオンラインで行ったとのこと。
その際、重視されるのはストーリーだ。新製品が出た場合、前のモデルからの変更点やスペックについて語られることが多いが、b8taではブランドの創業のストーリーや事業のミッションなど、商品の背景にある情報をまず知り、そこからスペックに落とし込む手法を取っている。