コロナ禍にあって最も打撃を受けている外食産業。生き残るために、目先だけでなく中長期的に考え、抜本的な改革に取り組まなければならない状況にある。こうした中で、キーワードとして語られるようになっている取り組みが「DX(デジタルトランスフォーメーション)」。先端的な飲食店、その飲食店にソリューションを提供する企業それぞれの最新事例を、2020年11月18日に開催したオンラインセミナー「飲食店経営DX」から探った。

 飲食店の予約管理や顧客管理のクラウドサービスを開発・運営するトレタ(東京・品川)。代表取締役の中村仁氏は、とんかつ店や豚しゃぶ店を展開する「豚組」の創業者で、オーナーでもある。

 また2014年からは、飲食店におけるテクノロジーの最新動向やノウハウをシェアし、未来へ向けて議論を行うカンファレンス「FOODIT TOKYO」を立ち上げ、毎年開催するなど、外食産業の変革をリードする1人だ。

 飲食店経営者とITベンダーという2つの顔を持つ中村氏は、これからの飲食店が目指すべき姿をどのように考えているのか、また、テクノロジーをどのように活用しているのか、「DX」の観点から自身の思いと取り組みを語った。

中村 仁(なかむら ひとし)氏
「豚組」創業者・オーナー/トレタ 代表取締役
家電メーカー、外資系広告代理店を経て、2000年より飲食店経営。「西麻布 壌」は立ち飲みブームをつくり、「とんかつ 西麻布 豚組」(05年)、「豚組 しゃぶ庵」(07年)では、Twitter集客が評価され、「外食アワード2010」を受賞。13年7月、トレタ創業。主な著書『外食逆襲論』(幻冬舎/19年10月出版)

コロナ禍における飲食店の現状は?

トレタが預かっている飲食店の来店データを集計すると、緊急事態宣言が発令された4月を底に徐々に持ち直してきて、最近では前年比80~90%あたりまで来ています。特にGo To Eatキャンペーンが始まった11月以降は伸びが大きい。実際、来店者がどういう経路でお店を手配しているかを経路別に見ると、Go To Eatに参画しているグルメサイトからの予約が多く、前年比で300%近くまで伸びています。

来店者数は昨年比で8~9割程度まで回復
来店者数は昨年比で8~9割程度まで回復
Go To Eatキャンペーンによってグルメサイトからの予約が急増
Go To Eatキャンペーンによってグルメサイトからの予約が急増
Go To Eatキャンペーンに伴い新規顧客(1回目の来店の方)が増加
Go To Eatキャンペーンに伴い新規顧客(1回目の来店の方)が増加

 これに伴い、新規顧客(1回目の来店の方)が非常に伸びています。それに連動する形で2回目来店の方も伸びており、明らかに来店のお客さんの層が変わっていると言えます。

 ただ、飲食店経営者であれば実感があると思いますが、新規来店はなかなか安定しない。Go To Eatキャンペーン下だからこそ新規が増え、需要回復の効果は出ていますが、Go To Eatのポイントの消費期限である3月が過ぎれば、また来店数が減ってしまうのかなと考えています。

経済活動がコロナ前に比べて7割の水準にある「7割経済」の中で飲食店が生き残るための一手とは?

この「7割経済」は継続すると見ています。つまり、飲食店はこの7割経済の中でどうやって生き残るかを考えなければならない。その最大の方法論の1つが「DX(デジタルトランスフォーメーション)」だと思っています。

 「DX」は今非常に注目されているキーワードですが、これまで語られてきた「IT化」とは全く別物です。DXとは、「従来の成功体験や常識を捨てて、デジタルの技術やインフラを前提にゼロから事業を再構築する取り組み」だと考えています。

DXとは、「従来の成功体験や常識を捨てて、デジタルの技術やインフラを前提にゼロから事業を再構築する取り組み」
DXとは、「従来の成功体験や常識を捨てて、デジタルの技術やインフラを前提にゼロから事業を再構築する取り組み」

 なぜそこまで大きな変化が求められているのか。それは外食産業がガラッと変わってしまったからです。外食産業で常識とされていた方法論や考え方が、すべて逆転してきている。

 例えば「人材」。コロナ禍以前はどの飲食店経営者も、どうやったら採用を強化できるのかということを考えてきました。しかし今は、どうやって人を減らせばいいのかということを考えている。「立地」についても、従来であれば繁華街の一等地に出店すればビジネスとしては非常に堅かったわけですが、今では、繁華街にお店を持っていることはリスクそのものになっている。繁華街は家賃が高いし、密を避けて人がいない。今、人がいるのは、リモートワークなどもあって、住宅地になってしまった。

 これまで勝ち筋だった打ち手が利かなくなったというレベルの話ではなく、悪手に変わってしまったわけです。これだけ環境が変化しているので、飲食店が生き残っていくためには、そのありようも一度ゼロから再定義して根本から変わっていかざるを得ない。まさにこれがコロナ禍にあってDXが注目されている理由だと思います。

勝ち筋だった打ち手が悪手に変わってしまった
勝ち筋だった打ち手が悪手に変わってしまった

DXはビジネスモデルをゼロから作り直すこと

「DX」にどのように向き合えばよいのか?

中には新型コロナウイルスの感染拡大が収まったら元に戻ると考えている人もいると思いますが、私はそうは考えていません。このコロナによって起こっている急激な変化、逆転現象というのは、もともと来るはずだった未来なんです。5年から10年先に向けて少しずつ変わっていこうと言っていたことが、コロナ禍によって早まった。5年、10年先と思っていたことが今日やって来てしまった。コロナ禍による変化は不可逆であると捉えています。

 IT化というのは、既存の業務の一部を機械に置き換えていくということでした。ところがDXは、業務のプロセスや事業そのものを、もう一回ゼロから作り直すこと。

 概念的には、経営をアナログベースからデジタルベースへの転換ということになります。今までの飲食店は50年という外食産業の歴史の中で培ってきたアナログの店舗が前提としてあって、そこにデジタルを乗せていくことで少しずつでも経営を効率化していくという取り組みでした。これから求められるのは、デジタルを土台にしてお店を作りましょうということです。

 これによって、いろいろなメリットが出てきます。

 現在さまざまな飲食店が取り組んでいるテークアウトやデリバリー、ECは、売り上げは多少プラスになるかもしれませんが、本当に手間がかかるし、もうからない。店舗のオペレーションがアナログのままだと、いろいろなことをやればやるほど、指数関数的に作業が増えて、裏側の人的コストが増えていくからです。

 しかしDXによってそもそもの土台をデジタルに変えていくと、デリバリーやテークアウトが増えても、お店の人の手を煩わせなくても自動で処理して、対応できるようになる。DXをやらなければ、デリバリーやテークアウト、ECで、本当の意味での利益を生むことは難しいのだろうと思っています。

DXをやらなければ、デリバリーやテークアウト、ECで、本当の意味での利益を生むことは難しい
DXをやらなければ、デリバリーやテークアウト、ECで、本当の意味での利益を生むことは難しい

「DX」に取り組むうえでの注意点は?

「DX」に取り組むうえで絶対に忘れてはいけない視点があると考えています。それを語るときに出す例が、「おもてなしの呪い」です。日本の飲食店経営者のほとんどがこの呪いにかかっている。「日本の飲食店の価値はおもてなしにある」という考えです。私も2年ほど前まで、「日本の飲食店のアイデンティティーはおもてなしにあるので、ITの導入によってお店とお客さんの接点、会話が減ってしまうと、生命線が失われる」ということを言ってきました。IT化はいいけど、やってはいけない聖域があるよねということを言っていたわけです。

 しかし、飲食店をIT化することは本当に価値を損なうことなのか? 実は、私たちはこの答えを知っています。「回転ずし」です。ご存じの通り、回転ずしというのは、日本の飲食店の中で、最もIT化が進んでいる業態です。何時に、どのレーンで、どういうネタを、どれぐらいを流せばよいかを全部機械が教えてくれる。シャリもすべて機械が握ってくれる。その極限まで機械化され、自動化され、効率化されている回転ずしに来店するお客さんは、楽しくなさそうですか? いや、みんな笑顔で楽しそうですよね。

 つまり大事なのは、「顧客体験」という視点を持ったうえでデジタル化に臨めるかどうかだと思います。どんな顧客体験を作り上げたいのか? 飲食店が提供している笑顔や感動の本質はどこにあるのか? それは何によってもたらされているのか?―― DXはあくまで手段であり、最終的なゴールはその向こうにあるCX(カスタマーエクスペリエンス)です。飲食店が水面下でDXをやり切ることによって、お客様の体験を最大化することができれば、日本の飲食店は、これまでの限界を突破して、もう一段、二段上の存在になれると私は確信しています。

大事なのは「顧客体験」という視点を持ったうえでデジタル化に臨めるかどうか
大事なのは「顧客体験」という視点を持ったうえでデジタル化に臨めるかどうか

顧客体験を最大化するためにトレタは何に取り組むのか?

飲食店が一番価値を提供しているのは「食事」ですが、外食産業50年の歴史の中で、飲食店がやらなければならないことがどんどん増えてきました。結果、「食事」のところに集中したいにもかかわらず、それ以外の業務に手を取られるようになってしまった。そうした中トレタでは、店の業務負荷を減らして、できるだけ効率化できるように「お店を探す・見つける」や「予約」のところをデジタル化してきたわけです。

 しかし、現在は、これまで聖域と考えていた店舗のオペレーションや、顧客体験まで踏み込んで、デジタルの力を使って変えていこうということに取り組んでいます。飲食店は価値提供の本丸である「食事」に専念し、我々が「食事」以外のすべてをデジタルに置き換えていけば、お客様のストレスがなくなり、快適で便利になると同時に、お店側の業務負荷もコストも下がって、仕事も楽しいという環境ができると考えています。最終的には、これまで限界があって実現できなかった理想のお店に、テクノロジーの力で近づけていこうというのが、我々が提供しようとしている新しいサービス「トレタO/X(オーエックス)」の目的です。

飲食店が「食事」に専念し、それ以外がすべてデジタルに置き換われば、来店客の快適さが向上すると同時に、店舗の業務負荷もコストも下がる
飲食店が「食事」に専念し、それ以外がすべてデジタルに置き換われば、来店客の快適さが向上すると同時に、店舗の業務負荷もコストも下がる

注文をワクワク楽しいものにしていく

 私自身も飲食店を経営しています。コロナ禍のお店の惨状を見ながら、このままでは絶対に生き残れないと思いました。ギリギリまで悩む中で、もはやこれしかないだろうと唯一たどり着いた方法論が、店内におけるオペレーションから顧客体験までを変えるということです。業務で言うとメニューから注文、決済を変える(上図参照)。ここを変えることによって顧客体験や、従業員の働き方、お店のオペレーションのあり方を根本的に変えていく。もっと言うとPL(損益計算書)の構造を変えていく。

 「トレタO/X」は、ありていに言えば、モバイルオーダーやセルフオーダーの領域ですが、全く違ったコンセプトで作っています。何が違うかと言うと、(スマートフォンで見る)メニューをどういう構造にして、どういう体験をしてもらって、お店として何を訴えたいかということを、きちんと反映させていくということ。一般的なセルフオーダーは、業務を効率化しようとするあまり、メニューが本来持っているメッセージ性や、リッチさ、楽しさ、注文する体験をワクワク楽しいものにしていこうという視点が欠けていると思うんです。我々はここを丁寧に作り込んで、より良い顧客体験を実現することを目的にしています。

ワンダーテーブル(東京・新宿)が運営するクラフトビールのレストラン「よなよなビアワークス」では、スマートフォンで、メニューに込められたお店のこだわりや、料理に合うビールなどが分かり、そのままオーダーができる
ワンダーテーブル(東京・新宿)が運営するクラフトビールのレストラン「よなよなビアワークス」では、スマートフォンで、メニューに込められたお店のこだわりや、料理に合うビールなどが分かり、そのままオーダーができる

 デジタル技術によって顧客体験が向上して、満足度がアップすれば、結果として、コストを下げながら客単価を上げることが同時に達成できる。「7割経済」の中でも、ちゃんと利益が出るお店を作っていけると考えています。

 ただ、これはトレタだけでは作れない。今までの飲食店とITベンダーの関係性は、「発注」と「納品」でしたが、これから大事になってくるのは、飲食店の方々がお店をどう変えていきたいのか、理想のお店は何かということを、ITの人たちを巻き込んで一緒に突き詰めること。アナログとデジタルの人材が混ざり合うことで起こる化学変化によって、全く新しい飲食店のあり方というのが創造されていくと思っています。

飲食店とITの人材が混ざり合うことで起こる化学変化によって、全く新しい飲食店のあり方が創造される
飲食店とITの人材が混ざり合うことで起こる化学変化によって、全く新しい飲食店のあり方が創造される

 DXは非常に大変ですが、ここでいち早く取り組んで、成功することができたお店は、おそらくコロナ禍が収束した後でも、非常に強いお店になると思っています。そもそもPLの構造が違うわけですから。そういう意味ではコロナ禍は危機であるとともに、飲食店にとっては非常に大きなチャンス。ぜひ皆さんもDXに前向きに取り組んでいただき、50年ぶりの大きな変化を乗り切って、次の新しい飲食店を一緒に作っていけたらと思っています。

本記事の講演動画はコチラ

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