「マーケティングDX実現のヒントが見つかる」をテーマに、2020年11月16、17日の2日間で開催した「日経クロストレンドFORUM 2020」。17日は日経トレンディと日経クロストレンドが発表した「2021年ヒット予測ランキング」の3位に入賞した「ビヨンド副業」の分野で注目されるビザスクの端羽英子CEOが登壇。同社が運営する同名サービス「ビザスク」の詳細や成功事例、新しい時代の事業運営について語った。モデレーターは日経トレンディの三谷弘美編集長。
今やワークスタイルの1つとして認知されるようになった「副業」。本業とは別の企業などと新規で雇用契約を結ぶのではなく、よりカジュアルに新しい価値を創造するサービスも登場している。
ビザスクが展開するのは、専門的な知見や経験を持つ「その道のプロ」に、対面やウェブ会議、電話などを通じてピンポイントで相談できるスポットコンサルサービス。国内外12万人のアドバイザーが登録しており、サービス利用者のニーズに合わせてマッチングを行うことで、利用者がプロから1時間話を聞けるようにしている。特に、新規事業の立ち上げやDX(デジタルトランスフォーメーション)などに対する新しい知見を求めたいときに有効で、ビザスクを利用して事業を伸ばしている企業も多いという。
ビザスクの端羽英子CEOは「ビジネスの意思決定に使えるような、クオリティーの高い実名性の集まる場所にしたかった」と話す。
ビザスクの最大の利点は、必要な社外知見を持つ人にピンポイントで出会えることだ。プロのコンサルタントではない一般人がアドバイザーとして登録するわけだが、その際、テクノロジーとオペレーションを生かし、企業での勤務年数や業種、分野など、当人が持つ情報を丁寧に収集していく。そうすることで、クライアント側とアドバイザーのミスマッチを防ぎ、ピンポイントでマッチングできるようなデータベースが作れるという。
「リリース当初の2013年は副業をするのが非常に厳しかったが、労働人口の減少や15年からの働き方改革などが要因となって、注目してもらえる機会が増えた。今では国内10万人を超える人たちに登録いただき、600以上の企業で活用されている」と端羽氏は語る。
短時間・低コストで多角的に情報を集められる
では、企業はどのようにビザスクを活用しているのだろうか。ライオンは、画像解析技術とAI(人工知能)を使い、舌の画像からその汚れ状態を解析する口臭ケアサポートアプリ「RePERO」の開発時に同サービスを活用した。RePEROは新規事業専門のチームを編成して創出した事業だったが、メンバー全員が新規事業創出の未経験者。アプリ開発や画像解析など、実現するために必要な知見が社内では不足していた。そこでビザスクで知見を得たのだという。
新規事業を立ち上げる場合、その企業にはない、幅広い分野の知識が必要になることもある。だが、すべてに適切に回答できる人物を1人見つけるのは至難の業。分野ごとにアドバイザーと契約するのも手間とコストがかかる。
その点、ビザスクなら画像処理やアプリ設計など、ポイントごとに必要なアドバイザーを1時間単位で利用できるため、短時間かつ低コストで多角的に情報を集められる。「利用したユーザーからは、『様々なアドバイザーに意見を聞くことで納得感があり、社内の説得力が増した』という声も寄せられた」と端羽氏は話す。
またコニカミノルタは、ビザスクで得た知見を社内の説得に生かした。同社は、金融機関や調剤薬局などの窓口向けに、13言語に対応するタブレット端末「KOTOBAL」の有効性を検討していたが、社内には「ネットバンキングが増加し、銀行の店舗が減っているのに需要があるのか」といった反対意見も多かった。
そこでビザスクを利用し、元メガバンクに勤務していた人などにヒアリングを実施。「社内の反対意見を覆せるようなニーズが聞けて、ターゲット業界へのアピールポイントが分かった」のだという。
このほか、最近は海外調査へのニーズも高まっている。海外で先行している事例について、事業立ち上げに苦労した点などを聞いて参考にしたいというケースだ。また、あらゆる業種でデジタル化が進んでいるため、自社をDX化するうえでのアドバイスが欲しいという案件も多いとのこと。そうしたときもオンラインですぐに有識者とつながれるのがビザスクの強みだ。
コロナの影響で加速度的に利用者が増加
一方で、アドバイザーとして登録する人の数も増えてきた。この背景には、働き方改革が進み、「人生100年時代」ともいわれる中で、自分のキャリアについて考える機会が増えてきたことがあるだろう。コロナ禍で打撃を受けた事業分野には、今後に不安を抱えるようになった人がいる。複数の収入源を持っていたほうがいいのではないかと副業に興味を持った人もいるはずだ。
とはいえ「いきなり副業するのは難しいうえに不安が伴う。新しい企業と一から雇用関係を結ぶのは少しハードルが高い。でも、自分の得意な領域について1時間質問に答えるなら気が楽。そうした状況がビザスク登録者の拡大につながっているのではないか」と端羽氏は分析した。リモートワークの拡大で通勤時間が減り、時間に余裕ができたことも副業の追い風となっている。
また、アドバイザーとして活動する人は「知見を生かして貢献したい」という思いをモチベーションにしているとも指摘した。「多くの人が依頼者のためになりたいという思いで登録している」と端羽氏。スキルアップへの意識も高く、「自社の調査では、もっと上手に話せるようになりたい、本業へのプラスの効果を期待している人も多かった。これは我々にとってもうれしい調査結果」(端羽氏)。ビザスクが経験の棚卸しの機会になっているというわけだ。
新型コロナウイルス感染症の拡大によって、国内外の出張などは制限されているが、オンラインミーティングがより一般化して場所を問わずに人に会えるようになった側面もある。これは地方の中小、ベンチャー企業にはかなりプラスのポイントだ。
「以前から地方企業にも活用いただいていたが、コロナの影響で裾野が広がってきたように思う。20年に上場し、プラットフォームへの信頼度が上がったことも大きい。今は1つのスタートラインに立った感覚。より活動しやすくなった」と端羽氏は手応えを語った。
アフターコロナに向けて生活様式や働き方が大きく変わっている。新規事業を模索する企業にとっても、自分のスキルや知識を生かして貢献したいと考える有識者にとっても、副業を超えた新たな価値を創造するビザスクは活用できそうだ。