マイクロブログのTwitter(ツイッター)や、写真共有サービスのInstagram(インスタグラム)、動画共有サービスのYouTube(ユーチューブ)といったソーシャルメディアの登場により個人の情報発信力が飛躍的に高まった。その結果、個人が個人を相手に商品・サービスを提供する「個人経済圏」が急拡大しているという。「日経クロストレンドFORUM 2020」では、個人経済圏の現状に詳しい有識者としてCarstay(東京・新宿)のCMO(最高マーケティング責任者)である田端信太郎氏とMOSH(東京・目黒)のCEO(最高経営責任)である籔和弥氏が登壇し、最近のトレンドや、個人経済圏が消費・マーケティングに与えるインパクトについて語り合った。

CarstayのCMO・田端信太郎氏(中央)とMOSHのCEO・籔和弥氏(右)
CarstayのCMO・田端信太郎氏(中央)とMOSHのCEO・籔和弥氏(右)

SNSの普及で進む需要と供給の細分化

 日経クロストレンド FORUM 2020の2日目、2020年11月17日に開催された主催者講演のテーマは「ポストソーシャルの本質『個人経済圏』で消費はどう変わる」だ。Twitter、Instagram、YouTubeといったソーシャルメディアが当たり前のように使われるようになった昨今では、そこで生まれた個人同士の“つながり”をベースにした個人同士のビジネス「個人経済圏」が急拡大している。

 「ソーシャルメディアがあることを前提にしたポストソーシャルのビジネスは、まだまだこれから」と言うのは、キャンピングカーのシェアリングサービスを展開するCarstayのCMO・田端信太郎氏。Twitterに23万を超えるフォロワーを持ち、オンラインサロン「田端大学」を運営する田端氏は、個人経済圏の体現者とも言える存在だ。「個人経済圏には2つの流れがある。提供される商品・サービスがパーソナライズされる一方で、サービスを提供する側も個人になっている」と田端氏。

 これについてはMOSHのCEO・籔和弥氏も同意見だ。籔氏は、サービス特化型EC(電子商取引)構築支援サービスを提供するMOSHを立ち上げた背景について「ソーシャルメディアの広がりを受けて、事業をやりたい個人、スモールチームが増えていると感じていた。サービス提供者向けのECプラットフォームがないのでMOSHを始めた」と語る。同サービスにはフィットネスや家庭教師、英会話など、従来は企業が運営していたサービスを個人で提供する利用者が多いという。

 「コロナ禍で飲食店がつぶれているが、シェフの皆さんには『皆さんは一等地に店を構えて、一流シェフですという顔をしたかったのか』と問いたい。おいしいものを食べたいというニーズはある。にもかかわらず『店で待っている』という姿勢はすでに時代錯誤。シェフのほうから“出張”という形で客のところに出向けばいい。シェフが自宅まで来てくれるサービスを味わった客は、次にどんなに立派なレストランに行っても『やっぱり家に来てもらったほうがいい』ということになるかもしれない」(田端氏)

個人のネットショップ開設を支援するサービスとしてはとしてはBASE(ベイス)などが知られているが、サービス系事業者にもこのトレンドが広がりつつある
個人のネットショップ開設を支援するサービスとしてはとしてはBASE(ベイス)などが知られているが、サービス系事業者にもこのトレンドが広がりつつある

「個人経済圏」で消費はどう変わる?

 対応できる数に限りがある個人経済圏では、それほど多くの人たちに“刺さる商品・サービス”は必要ない。個人経済圏で重要なのはニッチな需要を掘り起こすことだ。籔氏は「例えばヨガなどでは、人に見られずに痩せたいというのが本質的なニーズだったりする。そうしたニーズを捉えることができれば経済圏ができていく」と話す。

 また田端氏はブランドよりも個人のスキルが重視される美容部員を例に挙げ、「スキルの高い美容部員だったら、ブランドをまたいで『スキンケアならこのブランド』『アイメークならこのブランド』のようなアドバイスをするのもいいのではないか」と指摘した。実際、美容部員や美容師に店舗設備を貸し出すレンタルサロン、シェアサロンも増えている。

 「MOSHの売り上げ上位者を見ると、SNSで多くのフォロワーを持つインフルエンサーばかりではなく、LINEの友達のようなエンゲージメントの高い人に利用してもらうことで個人の経済を回している人も多い。個人に向き合う形でサービス提供を捉え直す必要があると感じている」と籔氏は言う。

MOSHの売り上げ上位者の中には月商250万円という利用者もいる。個人レベルなら十分な規模といえるだろう
MOSHの売り上げ上位者の中には月商250万円という利用者もいる。個人レベルなら十分な規模といえるだろう

「個人経済圏」で企業のマーケティングはどう変わる?

 個人経済圏が企業から市場を奪いつつある現状は、ある種の対立構造のようにも見えるが、個人経済圏と企業の共存は可能なのだろうか。

 これについて田端氏は「この11月、広告代理店大手の電通が40歳以上の社員を個人事業主にした。体のいいリストラともいわれているが、もともと広告業やコンサルティング業は、どの企業にいるかではなく個人の人脈や創造性が重視される職業。そういう意味では間違っていない」と話す。

 「日本のメーカーの“モノづくり”の発想は、全員が1つの基準に合わせないといけないという画一的な発想。それでは創造性は生まれない。逆に、創造的な人を企業という枠の中に囲い込んでおくのは難しいのかもしれない」と田端氏。

 また籔氏は「個人経済圏とどう共存しようか悩んでいる企業は、個人・スモールチームを中心に事業を見直してみる必要がある。社内にいる個人をどう生かすか、個人経済圏に自社の商品・サービスをどうやって広げていくか、企業側から仕掛けていくべきだ」と話した。

 急速に拡大しつつある個人経済圏だが、サービス提供者と利用者間のトラブルなど、いくつかの課題も抱えている。そうした課題を解決していくことができれば、アフターコロナのビジネスの新しい形として個人経済圏が定着する可能性もある。

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