オンラインで開催された「日経クロストレンドFORUM 2020」。2020年11月16日の基調講演には、元ネスレ日本 社長兼CEO(最高経営責任者)の高岡浩三氏が登壇。DX(デジタルトランスフォーメーション)はイノベーションを起こすための手段だと語った。
2011年の就任以来、社長兼CEOとしてネスレ日本を高収益企業へと導いた高岡浩三氏は、現在ケイアンドカンパニーの代表として幅広い業界でイノベーションの創出支援に取り組んでいる。いまやDXは1つのキーワードになった感があるが、高岡氏はDXは単なるデジタル化ではなく、イノベーションを起こすための手段だと言う。
このイノベーションで日本は世界に後れをとっている。その原因は、高岡氏の言うメインバンク・システムにある。
「戦後の復興期は、銀行が大株主になって企業の成長を支えてきた。資本主義諸国の中でメインバンク・システムがあるのは日本だけだ。メインバンク・システムがあったことで株主総会が機能しなくなり、結果としてガバナンスの欠如などにつながった。近年、社外取締役を導入して経営のガバナンスを強化しているのはその反動」と高岡氏。
また戦後の約45年間、1990年代初めにバブル崩壊が起こるまで、年間約100万人ずつ人口が増えたことも日本の高度成長を支えた。メインバンク・システムは、日本の戦後復興期の成長モデルなのだ。
しかし、バブル崩壊以降は年間50万人ほどのペースで人口が減っている。縮小していく市場で売り上げを伸ばし、成長するための新しいモデルが求められていると高岡氏は言う。
市場調査から見えてこない問題の発見が鍵
「マーケティングとは、顧客の問題を解決することで付加価値をつくるプロセスと行動だ」と高岡氏。またイノベーションについて高岡氏は「顧客が問題だと思っていない問題を掘り起こしてソリューションを与えてこそイノベーション。認識されている問題を解決しても、それはリノベーションにすぎない」と説明する。
「扇風機がない時代に市場調査を実施しても、誰も(存在しない)『扇風機が欲しい』とは言わない。そこに扇風機が登場した。これがイノベーション。扇風機を使い始めれば、『首振り機能が欲しい』『タイマーが欲しい』といった欲求が後から出てくる。そうした機能を追加するのはリノベーション」(高岡氏)
では、これからのマーケティング、イノベーションに求められるものは何なのか。高岡氏の答えはデジタルとAI(人工知能)の力だ。「デジタルとAIの力でイノベーションを起こす。そのために必要なのがDX」と高岡氏は話す。
イノベーションを起こすには、まず、顧客が認識していない問題を掘り起こす必要がある。そのためにネスレが採用しているのが「NRPS」という手法だ。「NR」は「New Reality(新しい現実)」、「P」は「Problem(問題)」、「S」は「Solution(解決策)」を意味する。