「日経クロストレンドFORUM 2020」では2020年11月17日、「シリコンバレー発! 米国マーケティングDX最前線」と題したセッションを行った。サンリオのグローバル戦略を推進した経験を持ち、現在は米パロアルト在住のSozo Venturesの鳩山玲人氏が米国におけるDXの最新動向や、日本企業が米国スタートアップと組む場合のポイントなどを語った。

Sozo Venturesの鳩山玲人氏(右)と、モデレーターを務めた日経BPシリコンバレー支局の市嶋洋平支局長(左)
Sozo Venturesの鳩山玲人氏(右)と、モデレーターを務めた日経BPシリコンバレー支局の市嶋洋平支局長(左)

 JETRO(日本貿易振興機構)の調査によると、米国のベイエリア(サンフランシスコの湾岸地域)に拠点を置く日系企業は右肩上がりで増え続けており、2020年3月時点で過去最高の1035社に上る。業種別に見ると製造業、サービス業、IT関連の順に多い。その目的は「営業・販売」が最多だが、それに「市場調査/マーケティング」「パートナー探し」が続く。

ベイエリアに拠点を置く目的。「市場調査/マーケティング」と「パートナー探し」を合わせると、シリコンバレーにいる日系企業の約7割が何か新しいものを探している
ベイエリアに拠点を置く目的。「市場調査/マーケティング」と「パートナー探し」を合わせると、シリコンバレーにいる日系企業の約7割が何か新しいものを探している

 ベンチャーキャピタルであるSozo Venturesの鳩山玲人氏のところにも、市場調査やパートナー探しの相談は多い。その中には、日本企業が現地でパートナー企業を探すケースのほか、日本進出を狙うシリコンバレーのスタートアップが日本でのパートナー探しをしているケースもある。

 Sozo Venturesがマッチングを手伝った例に、データマイニングなどのデータ解析ソフトウエア事業を展開する米パランティアテクノロジーズがある。こうしたデータを扱うスタートアップの時価総額が非常に高くなる傾向がみられる。

 「通常の不況では需要が全体的に下がるため、全ての産業が影響を受ける。しかし、新型コロナ禍では人が移動できなくなる一方、様々な面でDXを進めなくてはならない状況があるため、デジタル需要がすごく高まっている。イノベーションが2年から10年早まったと言われ、それを起こしたパランティアテクノロジーズのような企業が時価総額を大きく上げている」(鳩山氏)

 デジタルイノベーションを起こしたスタートアップが高く評価され、それらを支援しているベンチャーキャピタルの投資意欲は衰えていないのが、現在のシリコンバレーの状況だという。

シリコンバレーはなぜ強いのか

 日経クロストレンド編集のリポート「マーケティングDX最新戦略」に掲載されている「全世界の都市のスタートアップエコシステム評価」では、上位に米国の3地域が入っている。中でも1位のシリコンバレーは圧倒的だと鳩山氏は言う。

 「シリコンバレーの強みは、資金が集まることと、世界中から人材が集まってくること。スタートアップが多く生まれてきた歴史の積み上げがあり、エコシステムとして圧倒的に強い」(鳩山氏)

■ スタートアップエコシステム評価図
■ スタートアップエコシステム評価図
全世界の都市のスタートアップエコシステム評価。資金が集まり、世界中から人材が集まるシリコンバレーが1位という評価だ

 背景にあるのは「シリコンバレーでは2~3年に1回職業を変える人が多く、人材の流動性が高い」(鳩山氏)ことだ。スタートアップを作るときに様々な分野の優秀な人材を集めやすく、SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)などサービスプロバイダーもそろっているので事業を始めやすい。そこにベンチャーキャピタルや投資家、金融機関などを通じて資金が集まり、スタートアップとの協業や買収を狙う大企業も集まってくる。こうした様々なプレーヤーによるネットワークでシリコンバレーのエコシステムはできている。

■ エコシステム図
■ エコシステム図
シリコンバレーのエコシステムを構成する7つのプレーヤー

 シリコンバレーの複雑なエコシステムの中でやっていくには、いろいろなネットワークを生かし、自分たちだけでやらないことが重要だという。

 「シリコンバレーでは他のプレーヤーをうまく使おうとする。日本は大学に所属して事業を行う、スタートアップ1社とだけ組んで事業を行うという形になりやすいが、それではトライアル&エラーの回数やネットワークの数が少なすぎて成功確率が上がりにくい。日本人は他者にうまく頼るのが苦手なところがあるが、もっといろいろな人に頼ってネットワークを作り、自分たちだけでやりすぎないようにすることが重要だ」(鳩山氏)

 鳩山氏はサンリオ米国法人のCOOとして「ハローキティ」のグローバル化に携わった経験も持つ。当時はフェイスブックやツイッターなどがスタートアップとして注目を集めていた時期。これらの企業が生み出すイノベーションをサンリオのDXに生かすため、様々な企業を訪れてネットワークを構築し、ハローキティの世界的なブームにつなげていったそうだ。

 当時を振り返った鳩山氏は、サンリオのような歴史が長く伝統もある企業でDXをうまく進められた要因の1つとして、「スモールサクセスからビッグサクセスにつなげたこと」を挙げた。ハローキティのグローバル化においては、フェイスブックやツイッター、インスタグラムなどのSNSを利用してブランド認知を高めていったが、これは米国でスタートしたからこそできたのではと打ち明ける。

 「まだ新興サービスだったフェイスブックやツイッターを導入できたのは、米国で、米国のチームが、米国のサービスを導入したから。いきなり日本で始めようとしていたらすぐに導入できなかったのではないか。日本の大きい本社ではなく、まずイノベーションを取り入れやすい米国の小さい子会社から始められたのがポイントだった」(鳩山氏)

 日本企業が米国でパートナー企業を探す場合、注目すべきスタートアップかどうかを判断するには「何よりまずその会社をよく見ることが重要」と鳩山氏は指摘する。自身が注目しているスタートアップにも触れながら、「シリコンバレーはビジネスモデルの宝庫。いろいろな会社を見て、研究してほしい」と結んだ。

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