新型コロナウイルス禍をきっかけに急速に進んだECシフト。その先端を行く米国では、どのような動きが見られるのか? 2022年3月末、米ラスベガスで開かれた小売りの祭典「SHOPTALK2022」に集結したトッププレーヤーたちが、自社の取り組みや勝ち残り戦略を明かした。実際にイベントを取材すると同時に、米ロサンゼルスで先端の小売店舗を視察したヤプリの伴大二郎氏とIBAカンパニーの射場瞬氏が、米国小売りの最前線を解説。あわせて、日経BPシリコンバレー支局長の松元英樹が、消費者視点で米国小売りの今を紹介する。

(本稿は、2022年6月24日に実施した日経クロストレンド・カレッジ「上半期の米国イベントからひも解く『2022年の小売りトレンド』」の一部を抜粋したものです)

2022年3月27日~30日、米ラスベガスで開催された「SHOPTALK2022」の様子。約1万人が参加した
2022年3月27日~30日、米ラスベガスで開催された「SHOPTALK2022」の様子。約1万人が参加した

 22年3月27日~30日、米ラスベガスで開催された「SHOPTALK2022」。世界各国から小売業界のトップ企業・リーダーが集結し、最新テクノロジーやビジネスモデルなど幅広いテーマについて議論を行う同イベントには、小売業界関係者約1万人が参加。小売りにまつわる様々な議論が交わされた。イベントに参加した伴氏と射場氏が注目ポイントを振り返った。

「SHOPTALK2022」、1万人の参加者の注目を集めたトピックは?

伴大二郎氏(ヤプリ、以下伴) SHOPTALKは、イベント名の通り“語り合うこと”に主眼が置かれ、小売り各社が現在進行形で取り組んでいる戦略や課題を共有し合う場です。また、他の小売りイベントでは出会えないようなD2C(Direct to Consumer)ブランドの経営者や投資家も来場するため、参加者同士の交流も盛んに行われます。22年のイベントでは、以下の11個が重要ポイントとして挙げられました。これらの背景には、「顧客中心主義」という考え方があります。その「顧客中心主義」の要素を分解すると、変化する顧客の「行動」と「思考」、それに対応する「ビジネスモデルの構築」の3つに分かれます。11個のポイントはそのいずれかの項目に位置づけられます。

1.The Store Is Back( 店舗への回帰)
2.Profits are the new sales(売り上げ→利益の追求)
3.New channels(新しいチャネル:メタバース/ライブストリーミング)
4.Checkout & Payments(チェックアウトとペイメント)
5.Authenticity(企業の信頼性)
6.Sustainability(サステナブル)
7.Loyalty(顧客ロイヤルティーの構築)
8.Consumer Personalities(消費者のパーソナリティー理解)
9.Next Frontier of data=Emotional Intelligence(エモーショナルデータの活用)
10.Cookie-less world : get used to it(クッキーレスへの対応)
11.Supply chain challenges(サプライチェーン革新への挑戦)

 そのうち特に参加者の注目度が高かったのは、「3.新しいチャネル(メタバース/ライブストリーミング)」。セッション中に実施された「どれが最も興味深い内容だったか」を尋ねるアンケートで、最も多い票を獲得していました。

伴氏が分類したビジネスモデル別の11の重要ポイント
伴氏が分類したビジネスモデル別の11の重要ポイント

射場瞬氏(IBAカンパニー、以下射場) 個人的に興味深かったのは、新型コロナウイルス禍で一気に進んだ、BOPIS(Buy Online Pick―up In Store=店舗受け取り)に対する小売り各社の取り組みです。早くからBOPISに取り組み始めた企業は同じような仕組みを採用していました。しかし、より多くの企業の間で導入が進んだ今は各社が異なる方法を採るなど、様々な勝ち方が出てきているようです。

米国小売りの店舗戦略、6つの新潮流

 DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展とともに、見直しが進む米国小売りの店舗戦略。各社は、どのような戦略で勝ち残ろうとしているのか。その注目すべきポイント、伴氏と射場氏が米ロサンゼルスで視察した最新の実店舗の様子を踏まえながら解説した。

【その①】大手小売りがローカル化戦略 化粧品専門店と協業も

 いま、米国の小売りで最も取り組まれているのが“ローカル化戦略”です。これは、コロナ禍による在宅勤務の影響で、徒歩15分圏内での買い物が増えていることに対応するものと言えます。もう一つ、化粧品店を中心にタッチアップ(接客)のニーズが根強く店頭回帰が起きています。

 この2つの要因が重なり、大手小売りと化粧品専門店が協業してショップ・イン・ショップ(大型店の売り場に、独立した店舗形態の売り場を設けること)を出店する動きが加速しています。百貨店の米「Kohl’s(コールズ)」と、仏LVMHグループ傘下の化粧品専門店「Sephora(セフォラ)」、大手ディスカウントチェーンの米「Target(ターゲット)」と、化粧品専門店の米「Ulta Beauty(アルタ・ビューティー)」のケースがそれぞれ当てはまります。

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