さとなお氏が聞く ネスレの成功に見る新規事業とファンベースの肝(画像)

ネスレ日本で「ネスカフェ アンバサダー」事業を成功させた津田匡保氏(現ファンベースカンパニー社長)。まだ顧客が少ない新規事業でファンベースの概念を生かすにはどうすべきか。ファンベースカンパニー会長の佐藤尚之(さとなお)氏が、改めて津田氏と対談した。

ファンベースカンパニー会長の佐藤尚之(さとなお)氏(写真右)と、社長の津田匡保氏(同左)
ファンベースカンパニー会長の佐藤尚之(さとなお)氏(写真右)と、社長の津田匡保氏(同左)

ネスカフェ アンバサダー漫画編(特集第3回)はこちら

※本インタビューは、書籍『ファンベースなひとたち』(2020年11月6日発売、日経BP)掲載分を一部改編・加筆したものです。
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佐藤尚之氏(以下、佐藤) 津田さんが「ネスカフェ アンバサダー」を立ち上げたのが2012年。僕と一緒にファンベースカンパニーを立ち上げるまで、約7年間担当者としてサービスに関わっていたんですよね。19年末で累計応募数が45万件を突破し、かなりのスピード感がありますが、この7年間で特に意識していたことはありますか。

津田匡保氏(以下、津田) 目の前のアンバサダーさんときちんと向き合うことです。アンバサダーさんを訪問して話に耳を傾け、一緒に考えてサービスを進化させる。あくまで一人ひとりのアンバサダーさんが中心で、ネスレはあくまでも黒子に徹しました。また年2回、全国の会場で数千人のアンバサダーさんを招待するパーティーや、100~200人程度が集まるキャンプイベントなど、ファンと共に楽しめるイベントも企画しました。

 宿泊を含めたキャンプをやったきっかけは、「もっとスタッフや他のアンバサダーさんと話をしたい。数時間のパーティーでは短すぎる」というアンバサダーさんからの声。音楽フェスを企画した際は、「アンバサダーさんと一緒にイベントをつくり上げたい」と考えてボランティアのスタッフも募集したら、100人くらいのアンバサダーさんがボランティアとして参加してくれました。

佐藤 もはや「お客様」というか身内ですよね。

津田 どれも予算はかかりますが、心に残る体験を提供するには必要なことです。でも、そうやってアンバサダーさんとのタッチポイントを増やした結果、見えてきたことがありました。最初はマシンの性能など機能的な部分に満足していた人が、ファンとして友人や知人に薦めてくれるようになる。さらに自発的にイベントに来てくれるなど、まるで階段を上っていくようにファン度(エンゲージメント)が上がっていくことを実感した7年間でした。

【特集】実践! ファンベース
【第1回】 ファンに寄り添う「トヨタイムズ」の価値訴求 徳力基彦×津田匡保
【第2回】 大ヒット『鬼滅の刃』に見るファンベース思考 徳力×津田対談後編
【第3回】 [漫画編]ネスカフェ アンバサダー ファンを起点に急成⻑のワケ
【第4回】 さとなお氏が聞く ネスレの成功に見る新規事業とファンベースの肝 ←今回はココ
【第5回】 [漫画編]安さだけじゃない! mineoファンが共感した社会的価値とは?
【第6回】 熱烈ファンの手でサービスが自走する mineoの実践ファンベース
【第7回】 [漫画編]多拠点生活サービスのADDress ファンを増やした「情緒価値」(11月13日公開)
【第8回】 ADDressに学ぶ ファン参加の極意は「あえて『隙』をつくる」こと(11月13日公開)
【第9回】 「ファンであることに自信を」 セガ公式Twitterのつながる力 (11月13日公開)

感情ある人間と向き合うのはファンベースの基本

佐藤 ファンとサービスを共創するというのは、ネスカフェ アンバサダーの立ち上げのときからイメージしていたんでしょうか?

津田 そうです。今でこそ、サブスクリプションサービスの代表例とも言われていますが、最初はECサイトでコーヒーカートリッジを都度購入してもらう仕組みでした。それだと離脱も多く、そもそもアンバサダーさんから「毎回買うのが面倒くさいから定期購入する仕組みをつくってほしい」と言われたのがきっかけ。アンバサダーさんを集めてミーティングをして、「コーヒーだけでなく、キットカットも一緒に買えるといい」など、傾聴していろんな意見を集めてつくったのが、14年にできた「ラク楽お届け便」です。だから、僕はサブスクモデルもアンバサダーさんの声から生まれたと思っています。

 ただ、断っておくと、ネスカフェ アンバサダーは、もちろん僕一人でつくったものではありません。根本のビジネスモデルを考えたのは高岡(ネスレ日本元社長の高岡浩三氏)さん。そこにコンセプトや情緒価値を加えていったのは、僕やチームメンバー、アンバサダーさんの声だと思っています。簡単に革新的なビジネスモデルをコピーされないためにも、情緒的な側面は必要だと考えていて、アンバサダーさんとの「エモい交流」があったことも、成功の大きな要因でした。

佐藤 私もアンバサダーキャンプに参加させてもらったのですが、そこでネスカフェ アンバサダーに対する考えを改めました。正直、それまでは「新しいビジネスモデル」程度にしか考えていなかったんです。サブスクモデルで、顧客とつながり続けることでファンを増やしていくという。

 でも、ただの仕組みだったら、例えばあのキャンプでの圧倒的な親近感は出ない。感情を持った「ファン」にちゃんと向き合っていて、どちらが企業でどちらが顧客なのかも分からないほど、フラットな関係で接し合うイベントは、これまで見たことがありませんでした。この「身内感」「一体感」がファンにとっては一番うれしいことですよね。

津田 キャンプでスタッフがカチッとしすぎていたら、お客さんはいつまでもリラックスできないですからね(笑)。来る人にとって一番心地いい空間づくりを常に心がけていました。

佐藤 感情ある人間と向き合うのは、ファンベースの基本です。マーケターってどこかで人を動かせると思ってしまうから、「囲い込む」とか「刈り取る」とか、人をモノとかデータとして扱ってしまいがち。でも、感情ある人間を囲い込むなんてもともとムリですよね。

 とはいえ、人と向き合っても、結果の数字がついてこないこともありますね。ファンに対しては誠実に接したいのに、「結果を出せなければ予算は割けない」と言われて苦しんでいるマーケターも多いでしょう。ネスカフェ アンバサダーはそのハードルをどうクリアしていったのでしょうか。

津田 もともとネスレには、従業員を含めて「人」を大切にする文化があります。社員だけではなく、顧客との関係性をすごく大切に考えるんですね。そして、お金をかけなくても顧客との向き合いでできることはたくさんあります。アンバサダーさんに会って話を聞くのもその一つで、やり方を変えればいいだけです。

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