ファンベースカンパニー社長の津田匡保氏と、noteプロデューサー、ブロガーの徳力基彦氏との対談後編。大ヒット中の『鬼滅の刃』から、noteを活用したぺんてるのファンコミュニケーション事例まで、話題は多岐に及んだ。

noteプロデューサー、ブロガーの徳力基彦氏(写真左)と、ファンベースカンパニー社長の津田匡保氏(同右)
noteプロデューサー、ブロガーの徳力基彦氏(写真左)と、ファンベースカンパニー社長の津田匡保氏(同右)

※対談前編(特集第1回「ファンに寄り添う『トヨタイムズ』の価値訴求 徳力基彦×津田匡保」)はこちら

津田匡保氏(以下、津田) 徳力さんが、最近気になったファンベース的な事例はありますか?

徳力基彦氏(以下、徳力) 映画が大ヒットしている『鬼滅の刃』は、アニメ放送がもともとヒットの起爆剤でしたが、そのアニメ放送前の19年3月末に1~5話で構成される特別版を劇場公開していました。従来のアニメやドラマなら、公開日より前に見せるのは基本的にタブーですよね。それに対して鬼滅の刃では、わざわざミニシアターで、しかも入場料も取って熱量の高いファンへ最初に確認してもらっていたのは、とても印象的でした。コアファンに先に見せてしまうというアプローチは、映画『君の名は。』でも取られていましたが、手法として確立されてきた印象があります。

 従来、『カメラを止めるな!』のような口コミによる大ヒットは、ある意味、狙って起こすというよりはハプニング的なものが中心でした。しかし、熱量の高いファンからの口コミによって大ヒットにつながった過程は同じ。それを正しい順番でファンとコミュニケーションを取り、うまく再現したのが鬼滅の刃だったのだと理解しています。これには、ファンベースの考え方が再現可能な手法の1つとして確立できる可能性を感じました。

津田 なるほど。一般に広く公開する前に一番厳しい目を持つファンに見てもらうことで、企業側も最終確認したい意識があったのかもしれません。その作品に対する真摯な姿勢が、ファンには伝わるんですよね。

徳力 企業側にファンベースという選択肢が増えたことは大きいですよ。何十年も前からファンベース的なやり方は、「べき論」としてはあったはずですが、ビジネス上の効率を考えると後回しにされてきた。それが、実際に今はビジネスが成功し始めているんですから。

津田 ただ、よくあるのが、ファンベースをやりたいと思っても、実務として「誰がやるの?」という問題。企業の多くが縦割り組織で広告宣伝をやる部署、マーケティングをやる部署と細分化されています。だから、経営層がファンベースの考え方に共感して取り入れたいと思っても、なかなか実行できずにいます。

徳力 権限がある人の頭の中にファンベース的思考があれば、その企業がやることは本来ファンベースに沿ったものになるはずなんですけどね。手法としてファンミーティングをやるかどうかは重要ではなくて、最初にファンを起点とするかどうか。それが、日本ではCMなどのマスマーケの効率があまりにも良いので、すぐにお客さんを見なくなってしまう印象があります。本当はマスマーケもファンありきのはずですが。

津田 もちろん、「ファンベース経営」という形でファンベースを経営方針の真ん中に導入している企業もあります。社員全員にファンベースを理解してもらい、顧客だけではなく社員自体の熱量も上げていく。経営の考え方の一つに入れてもらえれば、もっと良い会社が増えるのではないかと思っています。

【特集】実践! ファンベース
【第1回】 ファンに寄り添う「トヨタイムズ」の価値訴求 徳力基彦×津田匡保
【第2回】 大ヒット『鬼滅の刃』に見るファンベース思考 徳力×津田対談後編 ←今回はココ
【第3回】 [漫画編]ネスカフェ アンバサダー ファンを起点に急成⻑(11月11日公開)
【第4回】[ネスレ対談編]さとなお氏が聞く 新規事業とファンベースの肝(11月11日公開)
【第5回】 [漫画編]安さだけじゃない! mineoに学ぶファンベース(11月11日公開)
【第6回】 [mineo対談編]ファンの手でサービスが自走する秘訣とは?(11月11日公開)
【第7回】 [漫画編]多拠点生活サービスのADDressに学ぶファンベース(11月13日公開)
【第8回】 [ADDress対談編]ファン参加の極意は「あえて『隙』をつくる」(11月13日公開)
【第9回】 「ファンであることに自信を」 セガ公式Twitterのつながる力 (11月13日公開)

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