エグゼクティブサーチ会社「ハイドリック&ストラグルズ」日本オフィスで活躍する渡辺紀子氏が、21世紀を勝ち抜く「異能のキャリア」を紹介するシリーズ。第11回に登場するのは、幼少期に中国から日本に渡り、ドリームインキュベータ、ディー・エヌ・エー(DeNA)を経て、2019年5月からスマートニュース取締役CSO(最高戦略責任者)として辣腕を振るう任宜氏だ。
スマートニュース取締役CSO(最高戦略責任者)
任さんとはもう10年くらい、つてをたどって上海のDeNA Chinaを訪ねて以来のお付き合い。その後、スマートニュースに移られて、社食などが素晴らしいから見に来ないかとお声掛けいただいて再会し、人材案件もご一緒させていただきました。任さんは日本で育った中国人ですが、よくいわれるような「両方のいいところが掛け合わさった人」ではなく、「真のグローバル人材、地球人」。非常にフェア、そしてロジックと情のバランスの取れた方で、大変尊敬しております。
任さんは2014年2月にDeNA ChinaのCEOに就任された。その前に渡辺さんと出会ったわけですね?
「渡辺さんがいきなり中国に来たので最初は驚きました。すごい行動力だって。今から思えば、それもお仕事柄なんでしょうけど」
渡辺さんはそもそも商社の中国担当で日中を頻繁に行き来していた。にしても、(渡辺さんは)行動が早い。
「(他のエグゼクティブサーチは)皆さん、もう少し短期志向だと思うんです。せいぜい半年ぐらいで見ていて、その中でどうしたいというのがほとんど。たぶん渡辺さんの場合はもっと長期、10~20年の間にもしかしたらいい出会いがあれば、というスタンスで最初から来られている。話の内容も非常にゼネラルで、これからの経営とか、日中の経済問題とか。ヘッドハンターらしくない方だなというのが最初からの印象です」
任さんが単に日中の懸け橋ではなく、それを超えた人材であると見抜いての行動ですよね。
「確かに日本と関わり続ける中国系人材はあまりいません。もう60歳を越える私の母親世代はじめ、15~20年前まではけっこう日本に来ていたんですけどね。日本がまだ行き先としてもてはやされ、特に理系には憧れの場所。母親も物理学者で、僕は7歳まで中国にいて、それから日本に来ました」
暗黒の小学生時代
かつて取材した東京大学の学生にも同じバックグラウンドの青年がいましたね。
「今、日本で活躍する中国人の多くは二世。僕のように親が日本に留学し、そのまま職を得て永住している世代です。しかし、今の中国の10~20代で一番できる人は中国にとどまるか、米国に行くかの完全に二択です」
過去には日本で学んでさらに海外に雄飛という人も多くいたはずですが……。
「たまに漫画やアニメなど特異な領域とか、日本が大好きだからとやって来る人もいるけど、ごく少数派です。それに今、留学生は皆、中国に帰る傾向が強い。GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)などに勤めている中国人たちでも、中国に帰ろうとしてますね。それだけ中国市場が勃興しているのと、新型コロナウイルス感染症は中国のほうが感染者数が確かに少ないとか、いろんな複合的な理由があるんですけど」
「住めば都」のはずだったのが、そうでもなくなったと……。任さんも7歳で来日されたとなると、すんなり「住めば都」とはならなかったのでは?
「暗黒の小学生時代でしたね(笑)。いじめられる要素しか持ってなかったから。小2の途中からいきなりこちらに来たので、当然、何を話しているか分からない。授業で寝るのはその頃から覚えました(笑)。ただ、中国では飛び級をしていて、算数だけは進んでいたのでできた。半年くらいで話せるようになりましたが、そのほうがいじめられるんですね。言葉遣いが変でよくまねされたり、負けず嫌いの面もあったりしたので、反応が余計面白かったんでしょうね、相手からすれば」
それはしんどかったですね。さすがに両親も、子どもが小さくて適応しやすいときに一緒に連れて留学というわけにはいかなかった?
「ええ。生活が安定するまではと、僕は山西省の太原市の全寮制の幼稚園に預けられたんです。土日だけ双方の祖父母が交代で迎えに来てくれ、いわばたらい回しです。まぁ、どっちも大事にしてくれてましたけど(笑)。そうして母は僕が3歳のときにこちらに来て、東大の修士課程に入りました。システムエンジニア(SE)をしていた父はその半年後に後を追い、当時SEは引く手あまたでしたから、NECに採用されたと聞いてます」
いわゆる一人っ子政策の下で育ったわけですよね?
「ええ、最初の世代です。いじめは小学校卒業まで続きましたが、中学は受験をして横浜の桐蔭学園に入りました」
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