エグゼクティブサーチ会社「ハイドリック&ストラグルズ」日本オフィスで活躍する渡辺紀子氏が、21世紀を勝ち抜く「異能のキャリア」を紹介するシリーズ。その第9回に登場するのは、ローソンのアルバイトから同社理事執行役員まで上り詰め、ニトリホームロジスティクス社長を経て、SBロジスティクスのchairmanも担った松浦学氏だ。
Nice Eze社長、SBロジスティクス顧問
松浦さんとは最初、まだローソン在籍時に中国関連のご縁でお会いし、もう10年近くになりますか。年1回は一緒に飲みに行く間柄です。ご本人は大学を中退されてまで、アルバイト代で弟さんが就職するまで面倒を見られた。でも、そんな苦労をみじんも感じさせない。また、どこに勤めても激務で、1日3時間半しか寝ないサイボーグみたいな方なのに、10年たっても若々しいまま。そして楽しいおもてなしもこなす。そんなバランス感覚を大変尊敬しています。
1日3時間半の睡眠で若さは保てるものですか(笑)?
「最近入院しましてね。美容整形ではないですよ(笑)。『殺しても死なない男』と言われてきましたが、サイボーグも故障しますね(笑)。ただ、睡眠は十分。コロナ禍以前は年の半分以上は海外でしたし、ローソンでは多くの本部や地域を兼務して全国を飛び回っていましたからね。逆に言えば、どこでも会社を動かすリモートワークの先駆けでした(笑)」
できる人に仕事が集中してしまう典型例だ。
「『1人ブラック企業』です(笑)。海外では現地時間で動きつつ、日本の定例ミーティングにも出て、日本でも全国を飛び回って事実を見る、聞く、データと突き合わす。そして真因を見いだす。誰もができる仕組みにしなければ組織力を発揮できません。企業改革には気力体力の充実が必要です。時間計画は10カ月先まで組み立てています。睡眠も1日1食も、健康を計算してのことです」
では飲みに行くのも年間計画ですか?
「生産性を高めるには、行き当たりばったりというわけには……(笑)。遊びも必要ですし、仕事でリスケは付き物ですので、時間配分と優先順位を冷静に判断する準備にもなります。でも渡辺さんとの酒席は刺激になりますよ。たくさんの人と会われているからというだけでは人物眼も磨かれない。常に世の中の課題を肌で感じ、ビジネスとして捉えられているからこそ、それも養われると、お話ししていて思いますね。私も厳しいことを言われます(笑)」
父がいわば反面教師に
私も適度な緊張感があったほうが、酒もおいしく感じますね。にしても、働きづめのご様子ですが?
「無理はしていません。悲観的に準備して楽観的に対処したい性分です。父の事業の失敗で3度ほど住まいを追われました。人様の家の四畳半に家族で間借りしたり、給食費が払えなかったり、いろいろあって……」
お父さんはどんなお仕事をされていたんですか?
「自動化を設計して納入する会社の経営です。失敗は不渡りを受けての連鎖倒産。中小は資金繰りが苦しいですよ。技術者としては有能だったと思いますが、経営者としては……」
ご自身の時間の管理もですが、事業は計画性が大事だから、お父さんはいわば反面教師になった?
「そうですね。変化への対応には検証や分析は重要で、ある程度の計画は必要ですね。それと仲間。技術にたけていても財務に明るいかは別。自分の足りないところを認めてフォーメーションを組むべきです。子どもの頃、父に『お父さんは監督なの? キャプテンなの?』と聞いたこともありました。キャッシュフローやビジネスモデルに興味を持ったのは、そんな経験が大きいです。お小遣いはなく、新聞配達でやりくしてましたし……」
お若い時からそれだけ苦労を味わわれたんですね……。
「苦労ではなく、ネタです(笑)。計画なんてずれるもの、笑いに変えたほうが得です。例えば、もともとは東北大学工学部に行きたかった。超電導を研究したくて、有名な先生がいらしたからですが、父の会社が傾き、大学受験もやめてほしいと。理系ではアルバイトをする十分な時間もなく、急に法学部に志望を変えました」
お育ちはどちらですか?
「松山です。松山東高校に通いました。まぁ、やむなく文転というより、法律が父のような人たちを守るという思いで。母はごめんねと嘆いていましたけど……」
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