エグゼクティブサーチ会社「ハイドリック&ストラグルズ」日本オフィスで活躍する渡辺紀子が、21世紀を勝ち抜く「異能のキャリア」を紹介する連載シリーズ。第2回に登場するのは、宝塚歌劇団で活躍しながら180°の方向転換をし、ヘッドハンター、障害者雇用を経て、現在は通信制大学の八洲学園大学学長を務める水戸部優子氏だ。

水戸部 優子(みとべ ゆうこ)氏
八洲学園大学学長
宝塚音楽学校卒業後、宝塚歌劇団では男役として星組に在籍。2005年に退団後、慶應義塾大学経済学部卒。縄文アソシエイツ(東京・港)にて、エグゼクティブサーチ(ヘッドハンティング)およびトップ人材育成のための勉強会・研修運営などを行う。その後、Kaien(東京・新宿)で発達障害者を対象とした就労移行支援事業として職業訓練所の運営・就職支援・定着支援事業などに携わる。18年12月、通学不要でインターネットで学位が取れる通信制大学の八洲学園大学(やしまがくえんだいがく)学長就任
渡辺紀子が見た水戸部優子氏

 水戸部さんは私が以前在職していた会社、縄文アソシエイツの同僚に当たります。宝塚という華々しい世界からヘッドハントというニッチな黒子の業界へ。宝塚というのは全国から多士済々が集まる厳しい競争社会ですから、そこで既に鍛えられ、人を見る目を持っているし、意外と水が合ったのかもしれません。

 また、そもそも交友関係も幅広く、大相撲のファンで序の口からの見物を重ねている。好奇心も旺盛で大変なグルメでもあります。多趣味で見識も豊かというのも現在の成功につながっているのかもしれませんね。本人が学長にヘッドハントされてしまいました。そこでも当たりの柔らかさとは裏腹に、経営改革に辣腕を振るっている様子です。

 人を知ることは己を知ること。たくさんの人たちとの出会いを生かすことでキャリアは形成され成熟していきます。そして、教育者こそ偉大な縁の下の力持ちです。彼女は自身でも気づかぬうちに、関わる人々に押し上げられていったのかもしれません。それもまた“異能”の成せる業なのです。

水戸部氏について語る渡辺氏
水戸部氏について語る渡辺氏

 宝塚音楽学校の入学倍率は最高で48倍。平均しても25倍程度でまさに狭き門だがどのようにくぐり抜けたのか。やはりそこに水戸部さんの原点があった?

 「そうですね。宝塚は私の原点だと思います。宝塚は叔母に勧められて初めて観ました。現実とはまったく別の世界。剣幸さんが月組トップの頃の舞台でした。“夢”と呼んでは柔らかくなりすぎる。強烈なパワーが発散されている。涙が出ました。小5でした」

 「私は東京下町育ちですが、幼い頃、ピアノの道に進んでほしいといった母のプレッシャーを強く感じていまして(笑)、そこから逃れるため、また都会にはない豊かな自然に感動して、寄宿舎がある静岡県のカトリックの女子校に入りました」

 「宝塚という存在は自分には遠い世界だと思っていました。しかし、身長が166cmを超えたころ、『チャレンジしないと後悔する』と思ったんです。既に高校2年生の夏休みでした。最初の挑戦はいわゆる記念受験。ただ、もし1次試験(当時、約1600人から1次試験で100人に絞られた)に受かったら本格的に習い事に専念させてほしいと両親を説得しまして。そして奇跡的に1次を通過。次の1年は全力で頑張り、最後のチャンスである高校3年生のときに2回目のチャレンジで受かりました」

自分の100%の力を出し切ったのが良い経験

 「都内にある宝塚のための受験スクールをほとんど見学したり体験レッスンに参加したりするなどして、『ここだ!』という先生を見つけました。どう考えても3歳から習い事をしているような他の受験生に追いつけるはずがない。最後の数カ月は寄宿舎を出て、新幹線通学をしました。始発の新幹線で高校に、夜は遅くまでレッスンと無理なスケジュールでお稽古に通って、疲労骨折したことも。私にとっての『宝塚』は受験生時代から始まっていて、このときに自分の100%の力を出し切ったのは本当に良い経験でした」

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