社内で取り組んだことのないDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するリーダーには、既存事業とは異なる能力が求められる。全てを兼ね備えた完璧な人はいないが、会社にとって何が必要かを把握することは大切だ。多数の事業開発の経験を持つコンサルタントの岡村直人氏が解説する。

DXを推進するリーダーには、複数の能力が求められる(写真提供/shutterstock)
DXを推進するリーダーには、複数の能力が求められる(写真提供/shutterstock)

 前回の記事では、DX推進はマネジメントのスコープを経営と現場で分け、それぞれが協働することで組織の運営がスムーズになると説明しました。今回は、DXを主導する部門や組織で、業務をアサインする現場のリーダーに求められる能力や実務内容について説明していきます。以下の表でDXリーダーに求められる4つの能力をまとめました。ここから各項目を詳しく説明していきます。

●DXリーダーに必要な能力
●DXリーダーに必要な能力
DXリーダーに求められる能力には「自社事業ドメイン知識」「社内人脈・社外人脈」「デジタルビジネス知識」「エンジニアリング知識」の4つがある(画像提供/シェアボス、以下同)

DXリーダーに必要な能力(1) 自社事業ドメイン知識

 DXリーダーには、当然のことながらDXを行おうとする事業領域の知識が求められます。例えば、製造業のDXを目指すのであれば製造業の生産プロセスやバリューチェーン、品質管理などについての知識が必要となります。

 気をつけたいのは、現在の組織やプロセスに思い入れが強すぎる人物は、DXにおいてむしろ足かせになるということです。DXは、デジタル技術を前提とした現代の市場環境に合わせて、既存の組織やビジネスプロセスをリデザインする活動です。その過程では、組織の再編や業務プロセスの一新、市場価値に合わせた人材評価の改定、デジタル人材の参画などさまざまな変化を受け入れなければなりません。

 政治家が地盤となる組織の意に反する政策をなかなか打ち出せないように、DX組織の長も特定の組織や人物とのつながりが強すぎるとバイアスを受けます。例えば「この業務プロセスを電子化・無人化すると◯◯課長の部下がいなくなってしまう。代わりに◯◯という部署を新設して同等のポジションを与えよう」ですとか、「新プロセスの導入に反対している◯◯部の事業部長は私の先輩に当たる人だ。その部署に影響を与えない形に施策を作り直してくれないか」といったことが起こり得ます。

 大事なのは結果なので、上記のような忖度(そんたく)を踏まえた上でも目的を達成できればよいという考え方もあります。DX対象のドメイン知識が深い人間を選びつつ、かつそれに固執することのないよう、より上位のマネジメントレイヤーで監督すべきでしょう。対策として、目的の達成に大きなインセンティブを与え、目先の利権が機能しないようにする。またはそういったしがらみにとらわれない、利害関係のない人物やドライな人物を選ぶ、といったことが考えられます。

DXリーダーに必要な能力(2) 社内人脈・社外人脈

 DXは、そもそも自社のケイパビリティー (組織能力) として持ち得ないものを獲得する活動なので、デジタルやスタートアップのエコシステムに強い社外人脈があると頼もしいものです。例えば、リーダークラスとなるエンジニアやデジタル人材を推薦するリファラル採用、新規に導入するソリューションのレビュー、PoC(概念実証)実施時の技術選定など、自社ノウハウによる判断だけでは心もとないプロセスは、DXを推進する過程でたくさん出てきます。そのような時、信頼できる人脈からの支援は絶大な費用対効果をもたらします。

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