現場の一部部署だけが奮闘してもDX(デジタルトランスフォーメーション)推進は難しい。経営陣を巻き込み、事業全体で変革していく必要がある。今回は経済産業省が公開した「取締役会のDX通信簿」というべき資料を読み解く。多数の事業開発の経験を持つコンサルタント、岡村直人氏が解説する。

経済産業省が公開した取締役会のDX通信簿というべき資料「DX推進における取締役会の実効性評価項目」を読み解く(写真/Shutterstock)
経済産業省が公開した取締役会のDX通信簿というべき資料「DX推進における取締役会の実効性評価項目」を読み解く(写真/Shutterstock)
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 前回の記事では、DXを外部環境の変化を機会と捉えて実行するのか、それとも脅威と捉えて防衛的手段を講じるのかによって打ち手が変わるということを説明しました。現場に施策を落とし込む前に、マネジメント層が基本的なコンセンサスを形成しておく必要があります。DXのモチベーション・施策・スケジュールを整理することで、初めて議論をスタートすることができるのです。

 経営の意思決定に関する話が出たので、今回の記事では「取締役とDX」というテーマで書いていきたいと思います。「取締役」と聞くと、一般のビジネスパーソンからは遠い存在に思えるかもしれませんが、DXのような企業に対する影響範囲の広い取り組みでは、経営の監督と意思決定を担う取締役ないしは取締役会が果たすべき役割は極めて重要です。

 事業部門やIT部門などDX推進を担う現場としても、取締役の立場から事業全体を見渡す視野を持つことは大切です。そうした知識に基づき、経営層へヒアリングしたり、提言したりすることで有意義な結果を得やすくなるはずです。

 第3回で紹介した「DX推進指標」と同様に、経済産業省のWebサイトでは「DX推進における取締役会の実効性評価項目」が公開されています。これを参考に、DX推進にあたって役員陣が何を考えなければならないかを見ていきましょう。

関連リンク(クリックで別ページへ):
デジタル経営改革のための評価指標(「DX推進指標」)のページ
経済産業省が公開している「DX推進における取締役会の実効性評価項目」。PDF形式で公開している
経済産業省が公開している「DX推進における取締役会の実効性評価項目」。PDF形式で公開している
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取締役会のDX体制を自己診断

 「DX推進における取締役会の実効性評価項目」全体の構成は次のようになっています。多くの項目で「強くそう思う」「そう思う」「そう思わない」「全くそう思わない」と4段階のチェック欄を設けており、取締役のDXに対する姿勢を自己診断できるようになっています。いわば、取締役会の「DX通信簿」というべきものでしょう。

「DX推進における取締役の実効性評価項目」全体の概略
「DX推進における取締役の実効性評価項目」全体の概略

 チェックポイントを大きく分類すると取締役の選任や経営ビジョンといった「経営」に関する項目から始まります。続いて、予算や体制、ロードマップといったやや抽象度を落とした「執行」に関わる部分。最後にITを中心とした「システム」に関わる部分となっています。

デジタル人材抜てきの難しさ

 代表的なチェック項目を見ていきましょう。まずは「取締役の選任」の部分です。

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