「社内で自由にDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進してほしい」。そんな指令を受けても、何から手を付けたらいいのか迷ってしまう人は多いだろう。まずは自社が置かれた立場を分析することが大切だ。多数の事業開発の経験を持つコンサルタント岡村直人氏が、DX着手の筋道について解説する。

DXの方向性を定めるには、まず社内で外部環境の変化をどう捉えているかを分析。「攻めのDX」であるか、「守りのDX」であるかで取るべき手段が変わってくる(写真/Shutterstock)
DXの方向性を定めるには、まず社内で外部環境の変化をどう捉えているかを分析。「攻めのDX」であるか、「守りのDX」であるかで取るべき手段が変わってくる(写真/Shutterstock)
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 前回の記事では、DXには3つのレイヤーの中で最も狭い「自社にとってのDX」を考える場合に自社が属する業界によって求められるスピード感や技術の種別が変わってくるというお話をしました。今回はそれをさらに深掘りしていきます。

 ある企業が「DXをやるぞ!」となるきっかけ、そのほとんどはこれまで説明してきたような「外部環境の変化」を発端としています。さらにそれを分解すると2つに分かれます。1つ目は、外部環境の変化を「機会」、つまりチャンスと捉え、さらなる成長を目指すアグレッシブな「攻めのDX」。もう一つは、外部環境の変化を「脅威」と捉え、それらの要因によってシェアや競争力を失わないようにするための「守りのDX」です。

企業が外部環境の変化をどう捉えるかによって、取るべき施策は「攻めのDX」と「守りのDX」に分かれる
企業が外部環境の変化をどう捉えるかによって、取るべき施策は「攻めのDX」と「守りのDX」に分かれる
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 連載の第2第3回でもお伝えしたように、日本企業のDXはどちらかというと守りのDXを指す傾向が強く、デジタルを武器に市場シェアを伸ばしていくのはもっぱらスタートアップやベンチャー企業の役回りという状況です。

 もちろん、デジタルに明るい若い企業が活躍するのは素晴らしいことなのですが、筆者個人としてはアセットや知見で一日の長を持つ大企業がデジタルを活用して新しい市場を開拓していく、アグレッシブなDXももっと増えてもよいと感じます。大企業のDXで重要になってくるのは、単にデジタルなツールを導入することではなく、デジタルを使う側である社員の教育やカルチャーの変革だったりするのですが、そのあたりはまた別の機会に譲り、今回は「攻めのDX」と「守りのDX」それぞれに至るモチベーションやアクションの違いを見ていきたいと思います。

攻めのDXは「革新を伴う事業開発」がメイン

 外部環境の急激な変化をチャンスと見るか、ピンチと見るかによって企業の取るべきアクションが変わってきます。どのようなアクションになるのか、内部環境の観点を加えつつ見ていきましょう。

変化をチャンスと見るか、ピンチと見るかによって企業が取るべきDXの具体的なアクションが変わってくる
変化をチャンスと見るか、ピンチと見るかによって企業が取るべきDXの具体的なアクションが変わってくる
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 順に説明していきましょう。まずは「攻めのDX」の場合、基本的には「事業開発」という行動(アクション)を取ることになります。この事業開発には、投資や事業提携といった手段も含みます。

 当然、自社アセットのシナジーや内部リソースの強さ、ファイナンスなど具体的な検討項目は山ほどありますが、DXが通常の事業開発と異なるのは社内の文化としてのトランスフォーメーションを伴うということでしょう。

 私も様々な業種・規模の企業でDXに伴う事業開発に携わりましたが、出店や仕入れなど物理的アセットベースのビジネスをしている企業が広告やサブスクリプションといったビジネスモデルの異なるデジタルサービスへ投資の意思決定をするのは非常に難しいものです。社員教育などを重ねることによる意識面での改革が必要となります。

 また、デジタルマーケティングやシステム開発など、これまで会社として育てこなかった(つまり投資してこなかった)組織能力が必要となるため、自社の未経験領域における戦略設計や組織マネジメント、戦術の執行といった難易度の高いマネジメントが求められます。

 未経験領域のマネジメントに踏み込むに当たって意識や意思決定の変革、社員教育などが追い付かずに、ビジネスチャンスを目の前にしながら何もできないというもどかしい事例は、みなさんの周りでも目にするのではないでしょうか。

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