連載8回目からは、デザイン思考のフレームワーク「d.seed」モデルの後半になる問題解決パートを解説する。これには探索のフェーズ、実験のフェーズ、展開のフェーズがある。今回は、アイデアの出し方など探索のフェーズにおけるポイントを紹介する。

前回(第7回)はこちら

アイデアは質より量 1つの成功は3000の発想から生まれる(画像)

 前回までは、新しい事業機会を見いだすための問題発見パートである発見のフェーズや詳細化のフェーズについて紹介しました。今回からは、事業機会を具体化していくための問題解決パートを解説します。3つのフェーズで構成し、アイデアを考える探索のフェーズ、プロトタイピングを行う実験のフェーズ、実現に近づける展開のフェーズがあります。

 探索のフェーズは、問題発見パートで明らかになった事実を踏まえたうえで、アイデアを出しながら新しい価値を生み出す事業を考えることが狙いです。アイデアの出し方については、デザイン思考だからといって特別な方法があるわけではありません。いわゆるブレーンストーミング、もしくはSCAMPER(スキャンパー)法といったもので十分だと思います。

 スキャンパー法はアイデアを生み出すためのフレームワークの一種で、質問に対して回答するだけでアイデアを出せるようになります。ネットで検索すればやり方を紹介しているサイトもあるので、ここでは詳しくは触れません。

 ただし、アイデアを出すためのさまざまなツールを使う前に、重要なポイントが2つあります。それは「質より量」「有用性のみ考える」という視点です。

図1●デザイン思考のフレームワーク「d.seed」モデル
図1●デザイン思考のフレームワーク「d.seed」モデル

 特許件数を基にしたイノベーションの成功率やベンチャーキャピタルの投資結果を調査したStevens & Burleyの研究結果によれば、成功する事業を1つでも生み出すには、一般に3000のアイデアが必要とされているそうです。

 例えば、3000のアイデアの中から300ほどが正式に提案され、事業性を精査された125のプロジェクトが立ち上がります。このうち、可能性があるものとして9つが残り、さらに事業化の価値があると判断されるものが4つ。その後、実際に市場に投下されるのは1.7つくらいで、成功するのは1つというわけです。

 業界によっては、最初に必要なアイデアが5000~8000となる場合もあり、逆に3000未満のケースもあるでしょう。あくまで大まかな傾向であり、目安ぐらいに考えてください。

重視すべきはアイデアの実現性より有用性

 大事なことは、あるアイデアを企画書として提案したり、会議のアジェンダとして正式に社内で議論したりする前に、数千単位の(思いつきレベルも含めた)さまざまなアイデアが必要だという点です。言い換えれば、新規の事業開発や製品/サービス開発の初期段階で重視すべきはアイデアの質ではなく量なのです。

 アイデアを出すときは、技術的に形になるかといった実現性や、経済的な利益の出る事業になるかといった持続性を、いったん脇に置いて考えてください。そして「顧客や社会にとっての価値」、すなわち有用性のみを考えてください。

図2●1つの成功は3000のアイデアから生まれるといわれる。Stevens & Burley(1997年)の研究結果を基に筆者作成
図2●1つの成功は3000のアイデアから生まれるといわれる。Stevens & Burley(1997年)の研究結果を基に筆者作成

 新規の事業開発のプロセスとは「今はできそうにないことを、どうすればできるかを考え、試行錯誤してできるようにする」ことです。なぜ、今できそうにないことに対して、わざわざリスクを取って推進するのかといえば、そのアイデアが顧客や社会に、新しい価値を提供する可能性を秘めるからです。現時点で具現化できるかどうか曖昧だからこそ、成功したときにイノベーションになるのです。

 21世紀の代表的なイノベーション事例であろう米アップルのiPhoneも、プロジェクトが立ち上がった当初の技術的・収益的な実現性は不明確だったそうです。初代iPhoneの発表会は2007年1月9日でしたが、その前日まで技術的な問題は未解決でした。

 創業者のスティーブ・ジョブズを含めたチームがプレゼンの練習を何度も繰り返すのですが、途中でiPhoneの電話が動かなくなる、iPhone自体がフリーズする、強制終了されるなどトラブル続きだったとか。技術的に完璧だったとはいえないながら、従来の携帯電話と異なる価値や体験を提供するiPhoneは、結果的に世界中に広く普及しました。

 以上のように、探索のフェーズでは「どんなアイデアなら形になるか」を考えることは避けましょう。発見のフェーズや詳細化のフェーズでの知見を踏まえながら、「どんなアイデアなら顧客は価値を感じるか」と人間中心の発想で多くのアイデアを考えます。

 探索のフェーズでアイデアを生み出した後は、本当にそのアイデアに想定していた価値があるのかどうか、確かめる必要があります。それが次の実験のフェーズになります。

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