顧客を1人の人間として捉えることが「共感」に

 まずd.seedで問題発見のパートを構成する「発見」のフェーズについて紹介していきます。

 発見フェーズは、新しい知見を獲得することが狙いです。顧客の日々の様子を理解したり、実際に同じ時間を過ごしたりしながら、現場レベルで何が起こっているのかを把握することが重要となります。具体的な事例として、創業間もない頃のAirbnb(エアビーアンドビー)の例を紹介します。

 Airbnbは2008年に創業した、民泊プラットフォームを運営する米カリフォルニアの企業です。今でこそ60万人以上の登録ホストが世界の約190カ国で民宿を提供しているといわれていますが、創業間もない頃の登録ホストは100人ほどで、そのほとんどがニューヨーク在住の人だったそうです。当時から創業チームはカリフォルニアにいたので、飛行機で片道5時間以上かかるニューヨークの登録ホストの様子はよく分かっていなかったとか。

 そこで会社の成長につなげるため、登録ホストの行動や考えを理解すべく、創業チームは登録ホストに次々に会うことにしました。単に「運営者」して会うだけでなく、「ゲスト」として宿泊をし、実際のユーザーがどんな体験をしているかまでも理解しようとしたそうです。

エアビーアンドビーのホームページ(https://www.airbnb.jp/)
エアビーアンドビーのホームページ(https://www.airbnb.jp/)

 毎週ニューヨークへ出張し、登録ホストと会話をしたり彼らの様子を観察したりした結果、2つの解決すべき課題が分かりました。1つは宿泊料金の設定に登録ホストが悩んでいることでした。もう1つは、写真撮影が下手な登録ホストが多く、本当はすてきな部屋なのにサイトでは汚い部屋にしか見えないことも分かりました。このように、現地に足を運んで関係者の様子を理解することで、創業チームはサービス拡大を実現するうえで解決すべき問題を明らかにできたのです。

 Airbnbの事例のように、現場で調査して成果を出すカギとなる考え方が「共感」です。共感とは、相手の立場に立ってその人の気持ちを理解することです。

 単なるニーズ探しではなく、「顧客やユーザー、事業の利害関係者がどのような考えや感情を持って生活しているのか」「その考え方や気持ちの背景にはどんな信念や価値観があるのか」といった部分、いわば人間性までも深く理解します。それによって既存の製品やサービスでは満たせないニーズや、顧客やユーザーが持っている理想と現状のギャップを知ることができます。

 「顧客」と表現していますが、共感するには「自社の製品を買っているお客さま」という視点ではなく、「1人の人間」として相手を理解する姿勢が重要です。なぜなら、自社や製品を中心にした顧客への理解は、結局のところ企業視点の「ターゲット」という発想から抜け出していないことになります。顧客である前に1人の人間であるという視点を持ち、企業中心の目線をいったん外してみる必要があります。

 Airbnbの社名は創業時「エアベッド&ブレックファースト」であり、登録ホストには部屋の提供だけでなく、朝食を出すことも義務付けていました。しかし、それでは朝の時間に必ず登録ホストが部屋の近くにいる必要があります。朝食の提供を不便に感じた登録ホストの声を取り入れ、Airbnbはその要件を撤廃しました。登録ホストの負担は減り、多くの登録ホストが登場しやすくなったのです。最終的に社名も変わりました。

 企業中心の視点が抜け切れないと、「社名に朝食(ブレックファースト)が入っているのだから、朝食を必ず出すように」と、登録ホストの希望を無視したことでしょう。Airbnbは企業中心の視点で発想をしませんでした。前回のハイアールの例である「サツマイモを洗濯機で洗う男性」への対応もそうです。Airbnbやハイアールのような組織は、業界や自社の常識・規定ルールといった「内部志向」ではなく、顧客やユーザーへの知的好奇心ともいうべき「外部志向」から始まります。「なぜこの人はこのような行動を取るのだろうか」という企業中心の視点とは異なる問いかけこそが共感への第一歩となります。

 では、どうすればうまく共感できるのでしょうか。ポイントは、相手の発言や行動の背景にある「理由」を理解しようとする姿勢にあります。詳しくは次回で解説します。

■参考資料
  • Dave Lee,Airbnb lowers internal valuation by 16% to $26bn, Financial Times, April 3 2020.
  • Smith, A. (1875).The Theory of Moral Sentiments.(翻訳:『道徳感情論』村井章子・北川知子訳、2014、日経BP社)
  • Vorauer, J. D., & Ross, M. (1999). Self-awareness and feeling transparent: Failing to suppress one's self. Journal of experimental social psychology, 35(5),415-440.
  • Leigh Gallagher. (2017). The Airbnb Story. (翻訳:『Airbnb Story』関美和訳、2017、日経BP社)